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第5話 悲しき性(さが)

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「えっと、ですから……さっきも言いましたけど、違う世界へ行く実験をしてたんです」
「違う世界ねぇ」

 おばさんがひとりごちた。

「でもまぁ確かに、全然違うところへは来ちゃってるわね」
「やっぱりそうなんですか?!」

 思わず声が高くなった。

「もしそうなら、最初の意図とは違っちゃいますけど、実験が成功したってことです!」
「――顔近い」
「え? あ!」

 つい立ち上がっておばさんに迫ってたことに、言われて初めて気づく。

「そんなに迫って、キスでもするつもり?」
「き?! しししししし、しませんっ!」

 なんてことを言うんだこのおばさん。というか、僕にだって選ぶ権利くらいある。どうせだったら……。

「んー、どしたの? もしかしてカノジョのことでも考えてるのかなぁ?」
「ちちち違います!」

 ほんとに「おばさん」って種族は、油断も隙もない。
 当のおばさんは面白そうにけらけら笑ったあと、ちょっと真面目な顔になった。

「で、ここどこ?」
「どこって言われても……いちおう、ユラ、って名前の村ですけど」
「聞いたことないわね」

 あっさりとおばさんが一蹴する。
 けど僕に言わせれば、異世界から来た人が知ってる方がおかしい。

「まぁ姿格好見た時点で、ニオンじゃないのは確かね。やっぱりパラレルワールト?」
「ですからそのパラなんとかって何ですか?」

 どうにも会話が噛み合わない。
 そこへぶつぶつ言いながら師匠が来た。これ幸いと話を振る。

「師匠、このおば……いや、この人に説明してください。未熟な僕じゃ手に余ります」

 途中で「おばさん」って言いそうになって慌てて言い直して、ついでに自分を下げて師匠を上げて。

 ――なんで僕、この年でこんな苦労してるんだろう?

 だんだん情けなくなってくる。けどここで修行を諦めたら、今まで我慢してきた意味がない。父さんだっていつもそう言って、どんなことでも我慢してた。
 けど師匠は答えなかった。顎に手を当てながら、まだぶつぶつ言ってる。

「あの、ししょ――」
「ちょっとそこのじーさんっ!」

 僕の声にかぶさるようにして、地下室にカン高い怒声が響き渡った。これにはさすがの師匠も度肝を抜かれたみたいで、びくっと震えて辺りを見回す。

「な、な、なんじゃ?!」
「なんじゃじゃないわよこの立ち枯れオヤジ! 人をこんなとこへ連れてきて、とっとと説明しなさいってば!」

 師匠もしかして、こんなこと言われたの初めてなんだろか? 目を白黒させて口をぱくぱくさせて、酸欠の魚みたいだ。同時に「おばさん」って種族をちょっと見直す。師匠にこんな顔させるなんて、並大抵じゃない。
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