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2:あなたに惑星(ほし)の押し売りを

Episode:18

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「正気って何が?」

 分かっているが、言ってみる。

「そりゃ、木星のことですわ!」

 珍しくいきり立つ姪っ子の目を真っ直ぐ見ながら、エルヴィラは答えた。

「正気だよ」

 さらに続ける。

「売れるものは何でも売る、商売の鉄則でしょ」
「でも、地球に断りもなく!」

 姪っ子の言い分は、分からなくもない。何しろ惑星ひとつだ。売り買いするには大きすぎるだろう。
 だがエルヴィラは、間違っているとは思わなかった。

「ねぇイノーラ、地球って今、どうなってる?」
「どうって……どういう意味ですの?」

 予想外の質問に、才女の姪っ子もいささか思考停止したようだ。
 その隙を突いて言葉を重ねる。

「だからさ、地球は今、子供をペットにして売ってやっと生きてるよね」
「ええ……」

 エルヴィラにしてみれば、とんでもないエゴだと思う。

 今居る大人たちを生かすために、何故自分たちが売られなくてはならないのか。
 当の大人たち自身を売るべきではないのか。せめて、拒むべきではないのか。

 だが本能は、すべての理性を踏みにじる。
 それで明日の食料が手に入るなら、人はたちまち鬼にも悪魔にもなる。

 もちろん我が子に白羽の矢が立った親たちだって、ぼうっとしてはいない。
 逃げたり隠れたりと、だいたいは必死に子供を守ろうとする。

 だが飢えた人々は容赦がなく、全員が監視者となって探し回るのだ。

 親子が逃げていると親類も白い目に晒され時には解雇されるうえ、子供が売れれば遠縁まで食料をいくらか優遇されるのもあって、なかなか味方にはならない。

 それどころか他の兄弟を人質にしたり、勝手に養子縁組をして親権を奪ったり、果てにはリストに挙がった子の親兄弟を殺そうとまでする。

 加えて宇宙へ出れば、子供たちが飢えることはない。

 この辺の保護は銀河系ではきちんとしていて、地球のペットなど足元にも及ばない扱いだ。
 上手くいけばエルヴィラたちのように、銀河系の教育を受けられることさえある。

 そんな幾つもの理由で、親たちは泣く泣く子供を手放すのだった。

 ふざけている。腹が立つ。許すつもりなどない。

 だがここで息巻いていても、状況は変わらない。
 むしろこのままでは余計悪くなって、自分たちのように売られる子供が増えるだけだろう。

 ――だから。

 まっすぐにイノーラを見ながら、言う。

「あたしこれ以上、子供は売らせたくないんだ」

 姪っ子は何か言いかけたが、けっきょく言葉にならなかった。
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