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2:あなたに惑星(ほし)の押し売りを
Episode:11
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(たしか、真円に近い軌道の惑星が見つからない、だったっけ?)
目の前の交渉相手は、そんなことを言っていたはずだ。
必死に考える。
ネメイエス星人が住んでいるのは、ガスジャイアントと呼ばれる木星型惑星だ。そして太陽系にも、同じような星が幾つもある。
――それも、円に近い軌道を描いていて、恒星から適度に離れた。
「イノーラ、ごめん、ちょっと計算して。ネメイエス星と太陽系の惑星、どのくらい似てる?」
「え? えぇ、ちょっとお待ちを」
故郷の危機に動転しているのか、姪っ子が素直に従った。
「……ざっとですが、結果が出ました。ネメイエス星はかなり、木星に近いですわ」
思ったとおり、交渉の材料くらいには使えそうだ。上手くいけば、太陽系を救うことも出来るかもしれない。
「えぇとすみません、データ見させて頂きました。それで、ちょっとお聞きしたいんですが」
交渉相手に話しかける。
「たとえば数百光年離れていたら、ガンマ線バーストは防げますか?」
「そうですね……それだけ離れていれば、その分時間がありますから、可能でしょうね」
予想通りの答えが返ってきた。
「数百年かけて準備が出来ますし、技術革新も望めます。現時点でもある程度は防げますから、大丈夫だと思いますよ」
「それなら、候補地があります」
エルヴィラは勝負に出た。
「私たちの出身地は、地球です。ご存知ですか?」
「あぁ、あの高知能ペットで有名な――」
途中で言葉が途切れたのは、目の前の話し相手がその「高知能ペット」だと気づいたからだろう。
「ええ、その星です」
ややこしいことにはあまり触れず、エルヴィラは話を進める。
「で、その地球のある星系なんですが、ネメイエス星と似た惑星があるんですよ」
「本当ですか?!」
相手が興味を示した。切羽詰っているだけのことはある。
「本当です。データをお送りしますから、ご覧になって検討していただけますか? 私の見立てでは、なんとか住める範囲だと思うのですが」
言いながら、相手にデータを送る。
銀河文明の技術なら、惑星改造はそんなに難しいことではない。
基本的な条件さえ合っていれば、あとはどうにか出来るものだ。
検討しているのだろう、しばらくの沈黙があったあと、向こうが口を開いた。
「たしかにこれなら、何とかなる範囲ですね……。ただ、地球のほうが納得するかどうか。それに私の一存では決められませんから、その辺の時間も頂かないと」
「ええ、どうぞゆっくりご検討ください。それから地球側との交渉は、私が受け持ちます。ただ――」
もったいぶって、そこで一回言葉を切る。
「何か問題でも?」
不安になったのか、相手が尋ねてきた。そこを逃さず、言葉を押し込む。
「問題というか……地球はあの守銭奴に魅入られたせいで、発展することも出来ず貧困の極みにあります。それこそ、身内を売らなくてはいけないくらい。それに対して、対価という形で援助をいただけませんか?」
「なるほど。ですが援助と言っても、たとえばどのような?」
ここであの食糧生産機械の稼動エネルギーを条件に出せば、勝手に決めても地球側は怒らないだろう。
だがエルヴィラは、それを言うつもりはなかった。
数十億人を養うエネルギーは莫大だし、何よりそれでは解決にならない。
それにネメイエス側も、いくら間借りするとはいえタダで養わなくてはいけないというのは、条件として飲みづらいはずだ。
だから、言う。
「たとえば、交流と、教育と、交渉の肩代わりなどを、六百年後の防御と共に」
相手がうなずいた。
「もっともですね。分かりました、そのような条件で上にかけてみます」
「よろしくお願いします」
言いながら思う。
夢へ一歩、近づいたかもしれない、と。
目の前の交渉相手は、そんなことを言っていたはずだ。
必死に考える。
ネメイエス星人が住んでいるのは、ガスジャイアントと呼ばれる木星型惑星だ。そして太陽系にも、同じような星が幾つもある。
――それも、円に近い軌道を描いていて、恒星から適度に離れた。
「イノーラ、ごめん、ちょっと計算して。ネメイエス星と太陽系の惑星、どのくらい似てる?」
「え? えぇ、ちょっとお待ちを」
故郷の危機に動転しているのか、姪っ子が素直に従った。
「……ざっとですが、結果が出ました。ネメイエス星はかなり、木星に近いですわ」
思ったとおり、交渉の材料くらいには使えそうだ。上手くいけば、太陽系を救うことも出来るかもしれない。
「えぇとすみません、データ見させて頂きました。それで、ちょっとお聞きしたいんですが」
交渉相手に話しかける。
「たとえば数百光年離れていたら、ガンマ線バーストは防げますか?」
「そうですね……それだけ離れていれば、その分時間がありますから、可能でしょうね」
予想通りの答えが返ってきた。
「数百年かけて準備が出来ますし、技術革新も望めます。現時点でもある程度は防げますから、大丈夫だと思いますよ」
「それなら、候補地があります」
エルヴィラは勝負に出た。
「私たちの出身地は、地球です。ご存知ですか?」
「あぁ、あの高知能ペットで有名な――」
途中で言葉が途切れたのは、目の前の話し相手がその「高知能ペット」だと気づいたからだろう。
「ええ、その星です」
ややこしいことにはあまり触れず、エルヴィラは話を進める。
「で、その地球のある星系なんですが、ネメイエス星と似た惑星があるんですよ」
「本当ですか?!」
相手が興味を示した。切羽詰っているだけのことはある。
「本当です。データをお送りしますから、ご覧になって検討していただけますか? 私の見立てでは、なんとか住める範囲だと思うのですが」
言いながら、相手にデータを送る。
銀河文明の技術なら、惑星改造はそんなに難しいことではない。
基本的な条件さえ合っていれば、あとはどうにか出来るものだ。
検討しているのだろう、しばらくの沈黙があったあと、向こうが口を開いた。
「たしかにこれなら、何とかなる範囲ですね……。ただ、地球のほうが納得するかどうか。それに私の一存では決められませんから、その辺の時間も頂かないと」
「ええ、どうぞゆっくりご検討ください。それから地球側との交渉は、私が受け持ちます。ただ――」
もったいぶって、そこで一回言葉を切る。
「何か問題でも?」
不安になったのか、相手が尋ねてきた。そこを逃さず、言葉を押し込む。
「問題というか……地球はあの守銭奴に魅入られたせいで、発展することも出来ず貧困の極みにあります。それこそ、身内を売らなくてはいけないくらい。それに対して、対価という形で援助をいただけませんか?」
「なるほど。ですが援助と言っても、たとえばどのような?」
ここであの食糧生産機械の稼動エネルギーを条件に出せば、勝手に決めても地球側は怒らないだろう。
だがエルヴィラは、それを言うつもりはなかった。
数十億人を養うエネルギーは莫大だし、何よりそれでは解決にならない。
それにネメイエス側も、いくら間借りするとはいえタダで養わなくてはいけないというのは、条件として飲みづらいはずだ。
だから、言う。
「たとえば、交流と、教育と、交渉の肩代わりなどを、六百年後の防御と共に」
相手がうなずいた。
「もっともですね。分かりました、そのような条件で上にかけてみます」
「よろしくお願いします」
言いながら思う。
夢へ一歩、近づいたかもしれない、と。
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