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1:世話焼き飛行は損の元?!
Episode:02
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データをチェックしていたイノーラが、忠告してきた。
「このままでは、間もなく追い越しますわよ」
「分かってるってば!」
エルヴィラはエネルギーの残量を見て、とっさに反物質エンジンのほうを逆噴射させた。
主力の推進器として使われることはないが、こういう急制動には便利だ。
それに、ここで主エンジンを使ったら、あとで間違いなくエネルギー切れになる。
船体を軋ませながら船が速度を落とした。
追っていた宇宙蝶の近づき方がゆっくりになる。
「待ってなね、いま助けてあげるから」
ぴったり寄り添うように船の位置を調整しながら、小刻みにエンジンを逆噴射。ほぼ等速で並ぶ。
宇宙蝶は飛ばされた直後は、身体の一部をせわしく光らせていたが、今は沈黙したままだ。
自力で針路を変えられるはずだが、その様子も気配もない。
諦めたのか、気絶――そんな生理現象がこの生物にあれば、の話だが――したのか。
死んだ可能性もあるが、それは今は考えないでおく。
この小さい個体は、たぶん子供だろう。
さっき起こった大規模な恒星フレアをまともに食らってしまい、あっという間に吹き飛ばされて、群れから離れてしまった。
しかも運の悪いことに、その針路が近くの巨大ガス惑星へ向かっている。
このままでは惑星の強大な重力に捕まって、大気圏で燃え尽きるか、重力で圧死だ。
「位置、速度、共に微調整します……調整完了、保護シールドの広域化を開始」
全方位スクリーンに、視覚化された保護シールドが広がって、宇宙蝶も包み込む様子が映る。
「針路0.0.5、斥力ボード出力上げて!」
「出力、上げました」
船と同じシールド内に入った宇宙蝶の子を押し上げるように、エルヴィラたちから見て上方向へ、ごくゆっくりと加速する。
本当は一気に針路を変えたいところだが、宇宙蝶の生体構造を考えるとできなかった。
無重力の世界で生きる生物に、そんな法外な加速を掛けたら、どうなるか分からない。
(我ながら、馬鹿げてるな)
一瞬、そんなことをエルヴィラは思う。
(あたしたち、彼らを観察しにきただけのはずなんだけど)
ここまでして助ける義理は、ひとカケラもない。売れる記録データが取れればOKなのだ。
だがエルヴィラには、見捨てられなかった。
飛ばされた小さい個体と、追いすがろうとする大きい個体。その哀れな様子が、昔の自分たちと重なったからだ。
エイリアンにペットとして売られて、宇宙港から旅立ったあの日、イノーラの母親が見送りに来た。
まだ小さかった姪っ子は手を伸ばし、泣きながら母親を呼び続けていた。
それを無理やり抱きかかえて、エルヴィラは宇宙船に乗り込んだのだ。
本当はイノーラだけでも、一緒にいさせてやりたかったのに……。
「このままでは、間もなく追い越しますわよ」
「分かってるってば!」
エルヴィラはエネルギーの残量を見て、とっさに反物質エンジンのほうを逆噴射させた。
主力の推進器として使われることはないが、こういう急制動には便利だ。
それに、ここで主エンジンを使ったら、あとで間違いなくエネルギー切れになる。
船体を軋ませながら船が速度を落とした。
追っていた宇宙蝶の近づき方がゆっくりになる。
「待ってなね、いま助けてあげるから」
ぴったり寄り添うように船の位置を調整しながら、小刻みにエンジンを逆噴射。ほぼ等速で並ぶ。
宇宙蝶は飛ばされた直後は、身体の一部をせわしく光らせていたが、今は沈黙したままだ。
自力で針路を変えられるはずだが、その様子も気配もない。
諦めたのか、気絶――そんな生理現象がこの生物にあれば、の話だが――したのか。
死んだ可能性もあるが、それは今は考えないでおく。
この小さい個体は、たぶん子供だろう。
さっき起こった大規模な恒星フレアをまともに食らってしまい、あっという間に吹き飛ばされて、群れから離れてしまった。
しかも運の悪いことに、その針路が近くの巨大ガス惑星へ向かっている。
このままでは惑星の強大な重力に捕まって、大気圏で燃え尽きるか、重力で圧死だ。
「位置、速度、共に微調整します……調整完了、保護シールドの広域化を開始」
全方位スクリーンに、視覚化された保護シールドが広がって、宇宙蝶も包み込む様子が映る。
「針路0.0.5、斥力ボード出力上げて!」
「出力、上げました」
船と同じシールド内に入った宇宙蝶の子を押し上げるように、エルヴィラたちから見て上方向へ、ごくゆっくりと加速する。
本当は一気に針路を変えたいところだが、宇宙蝶の生体構造を考えるとできなかった。
無重力の世界で生きる生物に、そんな法外な加速を掛けたら、どうなるか分からない。
(我ながら、馬鹿げてるな)
一瞬、そんなことをエルヴィラは思う。
(あたしたち、彼らを観察しにきただけのはずなんだけど)
ここまでして助ける義理は、ひとカケラもない。売れる記録データが取れればOKなのだ。
だがエルヴィラには、見捨てられなかった。
飛ばされた小さい個体と、追いすがろうとする大きい個体。その哀れな様子が、昔の自分たちと重なったからだ。
エイリアンにペットとして売られて、宇宙港から旅立ったあの日、イノーラの母親が見送りに来た。
まだ小さかった姪っ子は手を伸ばし、泣きながら母親を呼び続けていた。
それを無理やり抱きかかえて、エルヴィラは宇宙船に乗り込んだのだ。
本当はイノーラだけでも、一緒にいさせてやりたかったのに……。
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