上 下
2 / 51
1:世話焼き飛行は損の元?!

Episode:02

しおりを挟む
 データをチェックしていたイノーラが、忠告してきた。

「このままでは、間もなく追い越しますわよ」
「分かってるってば!」

 エルヴィラはエネルギーの残量を見て、とっさに反物質エンジンのほうを逆噴射させた。
 主力の推進器として使われることはないが、こういう急制動には便利だ。
 それに、ここで主エンジンを使ったら、あとで間違いなくエネルギー切れになる。

 船体を軋ませながら船が速度を落とした。
 追っていた宇宙蝶の近づき方がゆっくりになる。

「待ってなね、いま助けてあげるから」

 ぴったり寄り添うように船の位置を調整しながら、小刻みにエンジンを逆噴射。ほぼ等速で並ぶ。
 宇宙蝶は飛ばされた直後は、身体の一部をせわしく光らせていたが、今は沈黙したままだ。

 自力で針路を変えられるはずだが、その様子も気配もない。
 諦めたのか、気絶――そんな生理現象がこの生物にあれば、の話だが――したのか。
 死んだ可能性もあるが、それは今は考えないでおく。

 この小さい個体は、たぶん子供だろう。
 さっき起こった大規模な恒星フレアをまともに食らってしまい、あっという間に吹き飛ばされて、群れから離れてしまった。

 しかも運の悪いことに、その針路が近くの巨大ガス惑星へ向かっている。
 このままでは惑星の強大な重力に捕まって、大気圏で燃え尽きるか、重力で圧死だ。

「位置、速度、共に微調整します……調整完了、保護シールドの広域化を開始」

 全方位スクリーンに、視覚化された保護シールドが広がって、宇宙蝶も包み込む様子が映る。

「針路0.0.5、斥力ボード出力上げて!」
「出力、上げました」

 船と同じシールド内に入った宇宙蝶の子を押し上げるように、エルヴィラたちから見て上方向へ、ごくゆっくりと加速する。

 本当は一気に針路を変えたいところだが、宇宙蝶の生体構造を考えるとできなかった。
 無重力の世界で生きる生物に、そんな法外な加速を掛けたら、どうなるか分からない。

(我ながら、馬鹿げてるな)

 一瞬、そんなことをエルヴィラは思う。

(あたしたち、彼らを観察しにきただけのはずなんだけど)

 ここまでして助ける義理は、ひとカケラもない。売れる記録データが取れればOKなのだ。

 だがエルヴィラには、見捨てられなかった。
 飛ばされた小さい個体と、追いすがろうとする大きい個体。その哀れな様子が、昔の自分たちと重なったからだ。

 エイリアンにペットとして売られて、宇宙港から旅立ったあの日、イノーラの母親が見送りに来た。
 まだ小さかった姪っ子は手を伸ばし、泣きながら母親を呼び続けていた。
 それを無理やり抱きかかえて、エルヴィラは宇宙船に乗り込んだのだ。

 本当はイノーラだけでも、一緒にいさせてやりたかったのに……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ゾンビのプロ セイヴィングロード

石井アドリー
SF
『丘口知夏』は地獄の三日間を独りで逃げ延びていた。 その道中で百貨店の屋上に住む集団に救われたものの、安息の日々は長く続かなかった。 梯子を昇れる個体が現れたことで、ついに屋上の中へ地獄が流れ込んでいく。 信頼していた人までもがゾンビとなった。大切な屋上が崩壊していく。彼女は何もかも諦めかけていた。 「俺はゾンビのプロだ」 自らをそう名乗った謎の筋肉男『谷口貴樹』はアクション映画の如く盛大にゾンビを殲滅した。 知夏はその姿に惹かれ奮い立った。この手で人を救うたいという願いを胸に、百貨店の屋上から小さな一歩を踏み出す。 その一歩が百貨店を盛大に救い出すことになるとは、彼女はまだ考えてもいなかった。 数を増やし成長までするゾンビの群れに挑み、大都会に取り残された人々を救っていく。 ゾンビのプロとその見習いの二人を軸にしたゾンビパンデミック長編。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

宇宙のどこかでカラスがカア ~ゆるゆる運送屋の日常~

春池 カイト
SF
一部SF、一部ファンタジー、一部おとぎ話 ともかく太陽系が舞台の、宇宙ドワーフと宇宙ヤタガラスの相棒の、 個人運送業の日常をゆるーく描きます。 基本は一話ごとで区切りがつく短編の集まりをイメージしているので、 途中からでも呼んでください。(ただし時系列は順番に流れています) カクヨムからの転載です。 向こうでは1話を短編コンテスト応募用に分けているので、タイトルは『月の向こうでカラスがカア』と 『ゆきてかえりしカラスがカア』となっています。参考までに。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...