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第11話 虚像の護衛

儀式 Episode:06

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「どした?」
 目ざとく気づいて、イマドが訊いてくる。

「うん、いま、何か……でも、殺気じゃないし」

 人とも違う感じだったし、なんだかよく分からない。

「この辺の獣かなんかじゃね?」
「あ……そうかも」

 ただその割には、鋭さが強かったようには思う。
 どちらにしてもそれは一瞬で、もうどこにも気配さえなかった。

「もっかいあったら、調べりゃいいだろ。
 とりあえず、早く食えって。みんなもう、食い終わるぞ?」

「え? あ!」

 見ればみんなはもう、ほとんど食べ終わってる。

「お茶しかないのがねー」
「贅沢言うんじゃないよ、上物じゃないか」
「でもさ、ジュースのほうがいいじゃない」

 シーモアとナティエスのやり取りに、ちょっと笑いながら残りを食べて……あたしは手を止めた。
 太刀を掴んで立ち上がる。

「ルーフェ?」

 問いには答えず、走り出す。

 ――やっぱり何か、居る。

 けど駆けこんだ天幕の裏には、何もいなかった。そばの草むらが、派手に踏み荒らされてるだけだ。
 もう気配もなくて、静かな谷だけが広がってる。

「何があったんだい?」
「ごめん、分からない……」

 シーモアの問いにも、あたしは答えられなかった。
 たしかに何かが居たのだけど、それが何か分からない。

「これ見る限り、なんか居たのはたしかだね」
「けっこう大型じゃない? こんなに踏み荒らすの、ちいさい動物じゃムリだもん」

 シーモアとナティエスが、地面を調べながら言う。

「けど、そんなデカいヤツが居て、何も見えないってのも不思議じゃないか?」
「確かに……」

 彼女たちの言うとおりだ。踏み荒らし方から見て、相手は大型動物くらいはありそうだ。
 なのにロクに姿も見えないなんて、奇妙すぎる。

「……場所、変えたほうがいいんじゃねぇか?」
「いま天幕、張ったのに? だいいちどこ行くの?」

 ナティエスの言うことももっともで、どうしようかとみんなで頭を悩ませた。

「そしたらさ、ともかく今晩だけは予定通り、火焚いて様子見るのはどうだろうね。念のために、見張り立ててさ」
「それで……いいかも」

 どこかもっと安全な場所に移ったほうが、いいのはたしかだ。
 でもその場所はこれから探さなくちゃならないし、そのあとさらに移るとしたら、暗くなっても終わらないだろう。

 とりあえずは様子を見て、明日から動き出すのが妥当だ。
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みんなの感想(2件)

りーしゃ
2023.11.29 りーしゃ

以前からずっと応援しておりました
出会った時には本当に衝撃的で、何周も読み込むほどハマりました

今久しぶりに思い出して検索してみると、なんと作者様のXのアカウントを発見!
こちらで投稿されているとのことで、応援したくてアカウントを登録しました

戦争の描写、世界観の設定、魔法の設定や人物の描写
本当に細かく描かれていて、私が今まで触れてきた作品の中で一番、戦争について考えさせられました
テロについての考え方や、避難の時の動き方など、学ぶことも多かったです

こっこ様、この作品を書いてくださり、投稿してくださり、ありがとうございます
すごくすごく応援しております

解除
神威チサ
2023.09.01 神威チサ

 毎日更新を楽しみにさせていただいております。
 トンデモ美少女ルーフェイア。必死で自分の責務を果たそうとするし、それができるぐらいに能力は凄いんだけど、可愛い優しい気が弱い、一般常識実は知らない。
 ドンパチがあちこち起きてきな臭い世界情勢の中、彼女を中心とした出来事が、そこにいる人たち一人一人の視点で語られていく、多視点ファンタジー。
 その時何があったか、どうしてたかが章の最後にはきれいに組み合わさる立体パッチワークで、私としてはすっごく好きな書き方です。
 9月中はどんどん更新してくれるとのことなので、どれだけ読んでも次がある、ブックワームにとっての最上の幸せ。
 私と一緒に幸せな寝不足になりましょー♪

こっこ
2023.09.02 こっこ

感想、ありがとうございます!
ルーフェイアは、主人公なのに何故あんな気弱な性格なのか私にも不明なのですが、周囲の視点も含め描いて行けたらと思います
より寝不足になっていただけるよう、頑張ります!

解除

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