上 下
742 / 743
第11話 虚像の護衛

儀式 Episode:05

しおりを挟む
「あの、すみません、いますぐ……そちらにも、かけますから」
「すまないな、頼む」

 重そうな荷物に次々と魔法をかけて、使い良さそうな位置に置いて天幕を張って――ぜんぶ終わった頃には、日はもう傾きかけてた。

「今度は夕食ってやつ?」

 言いながらナティエスが、ちらりとイマドのほうを見る。

「……ちったぁ休ませろ」

 草の上に寝転がったまま、彼が答えた。
 いちばん働いてたから、疲れたんだろう。

 それにしてもナティエスも、最初からイマドに作ってもらう気なのが、ちょっと可笑しい。
 そんなあたしたちに、殿下が言った。

「なんだ、食事のことか?
 心配ないぞ、そこの冷気箱に、シェフが作ったものが入れてある」

「え?」

 驚いて開けてみると、たしかに「料理」が、ぎっしり詰め込んである。

「溶かせば食べられるそうだ。あと上のほうの凍ってないものは、早めに食べろとのことだったな」

 そういう家柄なだけあって、至れり尽くせりだ。

「屋敷にいるようには出来んが、まぁ問題ないだろう」
「問題っていうか……本格的すぎじゃないか?」

 覗きこんで検分してる、シーモアが言う。

「そうでもないぞ? スープも前菜もないし、デザートもない。パンと主食だけだ」
「それ、十分本格的すぎ!」

 ナティエスの上げた声に、イマドが起き上がった。

「よーし、んじゃメシにしようぜ」

 こういうの、単純とか現金って言うんだろうと思う。でもイマドが嬉しそうだと、見ててあたしも嬉しかった。

「凍ってないのっていうと、このどっちか?」
「だね」
「じゃ、こっちのサンド食べたいね。なんか旨そうだよ」

 べつに誰も異論はなくて、みんなで草の上に座り込んで、出したサンドイッチをほおばる。

「やっぱり美味しい~♪」
「でもこれ、生焼けのお肉が……」

 やわらかい葉っぱの間に、前に食べた、外側だけ焼けたお肉が挟まってる。

「ルーフェったら、また言ってる。それ、食べて平気だから」
「ほんとに?」

 でもよく考えてみたら、プロのシェフが作ったものだ。
 おかしなものを入れて、殿下がお腹を壊すようなマネは、ぜったいにしないだろう。

 世の中っていろいろ謎な食べ物が、いっぱいあるんだと感心する。

 ――そのとき。

 視線を感じて、あたしは首をめぐらせた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

愛なんてどこにもないと知っている

紫楼
恋愛
 私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。  相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。  白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。  結局は追い出されて、家に帰された。  両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。  一年もしないうちに再婚を命じられた。  彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。  私は何も期待できないことを知っている。  彼は私を愛さない。 主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。  作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。  誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。 他サイトにも載せています。

処理中です...