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第10話 空(うつほ)なる真実

そして、学院にて Episode:03

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(狂っている……ですか)

 自嘲する。当然のことだ、と。

 そんなことは学院に来る前からのことだ。
 戦場で命を刈り取るたび、敵からも味方からも言われた。

 そして最後、身内と呼べる存在をあんな形であっけなく失ったとき、かろうじて残っていた何かも壊れたのだろう。

 いずれにせよあの時、どんな状況になろうとも、自分は生き続けていくと決めた。
 そのためには味方を見殺しにしても、だ。

 今も変わらない。仮に誰か一人しか生き残れないとなれば、シルファさえもためらいなく、この手にかける。

 自分が一番よくわかっている。
 こんなことを考え、それを迷いもなく受けて入れてしまうのだ。正常のはずがない。

 だが常軌を逸した自分に、シルファは恐れも怯えもなく近づいてきた。
 真っ直ぐな紫の瞳で、偏見や先入観なしに手を差し出し、自分に異なる世界を垣間見せてくれた。

 ――だから。

 時間がかかってもいい、何か見出してくれれば、自分で見出した道を進んでくれれば、と思う。
 少なくとも彼女には、可能性があるのだから……そんなことを考えているうち、意識が眠りに沈んだ。

 それからどれほど眠ったのか。ふと、人の近づいてくる気配に目が覚めた。

(……シルファ?)

 だがいつもと少し違う。
 どこか怯えたような気配が感じられない。

 薄目を開けて視線をめぐらすと、歩いてくる彼女の姿が目に入った。

(これはまた珍しいですこと)

 胸元が大きく開いた水色のキャミソールに、丈の短い白のタイトスカート。
 そこへ無造作に、やはり白いジャケットを羽織っている。

 形のいい長い足はむき出しで、白いサンダルが涼しげだ。
 そして足首では見覚えのあるアンクレットが、午後の陽を反射させていた。

(何があったのやら……)

 こんな格好のシルファは正直、初めてだった。
 その彼女がすぐ脇まで来て、立ち止まる。

「すまない。寝ていたのか?」
「いえ」

 初めて見る、華が綻ぶような笑み。
 あの自信のなさは、どこにも見当たらない。

「おかえりなさい、シルファ」
「ああ、ただいま。ついさっき戻った」

 自己に裏打ちされた、ごく自然な表情を見て思う。

 ――大丈夫だと。

 例え自分に何かがあっても、今度は彼女は、きっと乗り越えていけるだろう。

 そしてこうも思う。
 また1つ、死ねない理由が出来た、と。

 そんなことを思いながらも、どこかでほっとしたのだろう。
 抗えない眠気に、タシュアはまた目を閉じた。
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