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第10話 空(うつほ)なる真実

閑話休題、孤島にて Episode:29

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「なら、迷うことないわ。それでいいじゃない」
「いいん、ですか……?」

 お母さんの私への答えは、あまりにもはっきりしていた。

「いいのよ、それで」

 そして、華やかに笑う。

「だって、好きなんでしょ?」
「はい」

 答えた瞬間、久々に澄み切った気持ちになった。この数日が嘘のようだ。

「結局はね、理由なんて要らないのよ」
「――はい」

 答えた私に、お母さんが満足そうな表情で言う。

「世の中なんて、突き詰めちゃえば簡単なの。いろいろ混ざってこんがらかって、ややこしく見えるだけ」
「……そうですね」

 ひとつの真理だろう、と思う。
 原点に立ち戻ってみれば、見えてくるものは多いのだから。

「自分の信じるところを、思う存分行きなさい。いつ死ぬか分からないなら、なおさらだわ」

 あっさりと言っているのに、なぜだろう、不思議な迫力がある。
 ある意味、タシュアにも通じるような……。

 そこまで思って気づいた。
 そういえばこの人は以前、「手合わせ」と言っていなかっただろうか?

 あまりにもさらっと言われたので気づかなかったが、こちらは曲がりなりにもシエラの上級隊だ。
 それを知っていて「手合わせ」と言うのだから、腕には自信があるのだろう。

 だとすると、この人は実戦か何かで、相当鍛えていることになるわけで……。

「ん? どしたの?」

 私が考え込んだからだろう、お母さんが訊いてきた。
 少し迷ったが、訊いてみる。

「あの、私と手合わせって……どこかで、格闘技でも?」
「あら、言ってなかった?」

 言われて初めて気がついた、そんな顔でお母さんが言った。

「あたしね、これでもまだ現役で、傭兵やってるの」
「……え?」

 思わず、そんな間の抜けた答えになる。

 このお母さん自身はいい。
 言われてみればそうかもしれない、そんなふうに納得させてしまう何かがある。

 ただ問題なのは、そういう人がこんな屋敷の持ち主で、私たちを買い取るほどの資産家ということで……。

「まぁいいじゃない、世の中っていろいろあるのよ。なにせ、あのルーフェの親だしね~」
「………」

 これではいけないのだろうが、納得してしまう自分が居た。
 ルーフェイアといい、このお母さんといい、常識で測るほうが間違いの気がする。
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