上 下
670 / 743
第10話 空(うつほ)なる真実

孤島にて Episode:15

しおりを挟む
「サリーアと申しますわ。こちらを預かっておりますの。
 もっとも形だけで、実務は他の方がやってくださるのですけどね」
 たおやかに微笑みながら、ルーフェイアに似た金髪碧眼の、車椅子の女性が挨拶する。

「タシュア=リュゥローンと申します。お招きにあずかって、光栄ですよ」

 毒舌と皮肉の応酬をしながら、記憶を探った。

 サリーアという名は、もぐりこんだシュマーの通信網で目にしたことがある。
 現総領はルーフェイアの母カレアナだが……たしか、その片腕だったはずだ。

 ――まさか、半身不随とは思わなかったが。

 シュマーには、戦えなくなったものを切り捨てる印象があったが、少々違うようだ。

「まぁ。喜んでいただけるなんて、こちらこそ光栄ですわ」
「私は喜んでいるなどと、言った覚えはありませんが?」

 すかさずタシュアは返す。

「集団の是非はともかくとして、人の上に立つような方がまともに言葉も理解できないのは、かなり問題でしょうね」
「あら、そうでしたの? それは失礼しましたわ」

 平然とうそぶいてみせるあたり、このサリーアという女性、相当したたからしい。

「ともかく立ち話もなんですから、こちらへ。飲み物でも用意させますから。
 おばさまもいらっしゃいます?」

 タシュアを無視することはなく、だが話には乗らずに進めていく。

「シルファさんが何故ここへ来たかだけは、先にお話させてくださいね。荷物のほうはなんでしたら、お部屋のほうまで運ばせておきますわ」

「結構です」

 サリーアの申し出を断る。
 もとがたいした荷物ではないし、何より他人に触らせたくなかった。

「では、お持ちになったままで」

 学院からシュマーの船で直接来たため、タシュアは例の大剣を持ったままだ。

 だがそれを、彼女は恐れるふうもなかった。
 まるで見えていないかのように、ごく自然に振舞っている。

 甘く見ているのか、それともよほど自信があるのか。
 あるいは、最初から諦めているのか。

 だが目の前の彼女の態度は、どれも微妙に違う気がした。

(片腕と呼ばれているのは伊達ではない、ということですか)

 いずれにせよ、かなりの食わせ者なのだろう。
 むしろそうでなくては、シュマーの中で引きずり降ろされているはずだ。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

愛なんてどこにもないと知っている

紫楼
恋愛
 私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。  相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。  白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。  結局は追い出されて、家に帰された。  両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。  一年もしないうちに再婚を命じられた。  彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。  私は何も期待できないことを知っている。  彼は私を愛さない。 主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。  作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。  誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。 他サイトにも載せています。

処理中です...