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第10話 空(うつほ)なる真実

孤島にて Episode:09

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「まったくもう、あの子ったら親をなんだと思ってるのかしら」

 閉まるドアを見ながらひとりごちるお母さんに、相槌を求められなくて良かった、などと思う。
 申し訳ないが、同意が出来ない。

「やれやれ、まぁいいわ。シルファ、だったわね? いつから学院に?」
「え? 8歳からです」

 視線が合う。
 海の底を覗くような、ふしぎな碧の瞳だった。

「8歳からって言うと、かれこれ10年近くだわね」

 お母さんの手が、すっと伸びる。

「大変だったわね」

 言葉と共に、抱き寄せられた。

 恥ずかしくて少し抵抗してみたが、意外に力が強くて逃げられない。
 あるいは私自身に、あまり逃げる気がなかったのかもしれない。

 お母さんが続ける。

「辛いのに我慢して、よく頑張ったわ。いい子ね」

 瞬間、何も考えられなくなった。
 そんなつもりはなかったのに、涙がこぼれる。

 ――そう、辛かった。

 両親が死んだのも、居場所がなかったのも、学院へ来たのも、私にはどうすることも出来なかった。
 だから、そういうものだと受け入れるしかなかった。

 けれど自分でも分からないところで、やっぱり辛かったのだと気づく。

「少し、ゆっくりして行きなさい。学院のほうには、あたしから適当に言っておくから」

 もし母親が生きていたら、こうなのだろうか?
 甘えてはいけないと思いながらも、腕の中でほっとしている自分が居た。

 頭を撫でられる。

「大丈夫、頑張りすぎて疲れただけよ。少し休めば、あなたならすぐまた、進めるから」
「……はい」

 いろいろ言いながらもルーフェイアが、この人に懐いている理由が、分かった気がした。

 顔を上げると、また目が合う。
 いたずらっぽい笑顔に、優しい瞳だった。

「さて、ずっとこうしてあげたいけど、そろそろルーフェイアが戻ってくるかしらね?
 後でまた夜にでも、話を聞きに来るわ」

「……すみません」

 申し訳ないのと、恥ずかしいのとで謝ると、この人がまた笑った。

「いいのよ。あなたたちがこんな思いするのも、元を正せばあたしたち大人のせい。謝るのはこっちだわ」

 偽善とも取れそうな言葉。

 でもこの人はたぶん、そういうのをすべて承知の上で、なお言っているのだろう。
 いろんな意味で、ふしぎな人だった。
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