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第10話 空(うつほ)なる真実
孤島にて Episode:06
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「でも事前に少し、見ておかないとダメね。夕食まで、資料に目を通してくるわ。
シルファさん、ごめんなさい。また後ほど」
言って行きかけたサリーアが、ふと止まって振り向いた。
「そうそう、忘れてたわ。ルーフェイア、おばさまがそろそろ、ここへ着いてよ」
「え……」
文字通りルーフェイアが石化した。
理由は良く分からないが、その人に会いたくないらしい。
「面白いものを、持っていくとおっしゃってたわよ。
――あら」
サリーアが途中で言葉を切った。
なんだかずいぶん、楽しそうな表情だ。
「噂をすればなんとやら、ですわね」
「え?」
後ろを指し示されて、振り返る。
「あらぁ、みんな勢揃い? ちょうど良かったわ」
豪奢な金髪に、海の碧の瞳。
ルーフェイアやサリーアによく似たこの女性が、話に出てきた「おばさま」だろう。
だがそれよりも、私は隣に目が行く。
白にも見える銀髪に、紅い瞳。
――タシュアだった。
いつもと変わらない様子で、私に訊いてくる。
「旅行はどうでした? それにしても、妙なところへ迷い込んだものですね。シエラの上級生がほいほい人の後についていくのは、どうかと思いますが」
この言葉を聞いて思った。タシュアは……何も分かっていない。
私が言われたとおり旅行へ行って、それなりに楽しんだと思っている。
「おやおや、話しかけられたのに黙っているとは、休みの間に礼儀まで忘れましたか?」
「――うるさいっ!」
無性に腹が立って、手に持っていたバッグを投げつける。
だが彼は、軽々と受け止めてみせた。
「なんで取るんだっ!」
「なんでと言われましても」
何のことか分からない、そんな口調。
いつもそうなのだ。
タシュアはいつだって、思うとおりに好きなことをして、好きなところへ出かけて。
相手に迷惑がかからなければ、好きにしていい。
それがタシュアの考え方なのは分かっている。そしてたしかに、迷惑がかかったわけではない。
だが、納得できるわけもなかった。
「何を怒っているのかは知りませんが、ともかく落ち着いてはどうです」
「………」
もう何も言う気にならず、きびすを返す。
シルファさん、ごめんなさい。また後ほど」
言って行きかけたサリーアが、ふと止まって振り向いた。
「そうそう、忘れてたわ。ルーフェイア、おばさまがそろそろ、ここへ着いてよ」
「え……」
文字通りルーフェイアが石化した。
理由は良く分からないが、その人に会いたくないらしい。
「面白いものを、持っていくとおっしゃってたわよ。
――あら」
サリーアが途中で言葉を切った。
なんだかずいぶん、楽しそうな表情だ。
「噂をすればなんとやら、ですわね」
「え?」
後ろを指し示されて、振り返る。
「あらぁ、みんな勢揃い? ちょうど良かったわ」
豪奢な金髪に、海の碧の瞳。
ルーフェイアやサリーアによく似たこの女性が、話に出てきた「おばさま」だろう。
だがそれよりも、私は隣に目が行く。
白にも見える銀髪に、紅い瞳。
――タシュアだった。
いつもと変わらない様子で、私に訊いてくる。
「旅行はどうでした? それにしても、妙なところへ迷い込んだものですね。シエラの上級生がほいほい人の後についていくのは、どうかと思いますが」
この言葉を聞いて思った。タシュアは……何も分かっていない。
私が言われたとおり旅行へ行って、それなりに楽しんだと思っている。
「おやおや、話しかけられたのに黙っているとは、休みの間に礼儀まで忘れましたか?」
「――うるさいっ!」
無性に腹が立って、手に持っていたバッグを投げつける。
だが彼は、軽々と受け止めてみせた。
「なんで取るんだっ!」
「なんでと言われましても」
何のことか分からない、そんな口調。
いつもそうなのだ。
タシュアはいつだって、思うとおりに好きなことをして、好きなところへ出かけて。
相手に迷惑がかからなければ、好きにしていい。
それがタシュアの考え方なのは分かっている。そしてたしかに、迷惑がかかったわけではない。
だが、納得できるわけもなかった。
「何を怒っているのかは知りませんが、ともかく落ち着いてはどうです」
「………」
もう何も言う気にならず、きびすを返す。
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