658 / 743
第10話 空(うつほ)なる真実
孤島にて Episode:03
しおりを挟む
「だー?」
「あ、えっとね……あたしの、先輩。いい人よ?」
ルーフェイアの説明が通じたのだろう。
ひとりが私の前に来て、見上げた。
お世辞にも聡明とは言えない、そういう表情。
その顔が、笑顔に変わる。
――可愛かった。
初対面の私を、好きだと言っているのが分かる。
「……はじめまして」
言ってこの子の頭を撫でると、さらに嬉しそうな表情になった。
その笑顔につられて、私もつい笑う。
身体こそけっこう大きいが、シエラに居る小さい子たちと、変わらないと思った。
「グレイス様ー、すみません、助かりました」
声に振り返ると、見知らぬ女性が手を振りながら駆けてくる。
「あの子、やっと落ち着いて。ありがとうございました」
「ううん。あたしも久しぶりに、みんなに会えたし」
短いやり取りのあと、女性が子供たちに声をかける。
「さ、おやつあるから帰ろうね」
世話係なのだろう、子供たちは大喜びで女性のあとをついていった。
「やっぱりああいう子の世話は、いろいろ……たいへんなんだな」
「ええ……」
ルーフェイアは否定しない。つまり、そういうことなのだろう。
「いつも、あの子たちと遊ぶのか?」
「えっと、ここじゃない実家なら、いつもです。
うち、ともかく手が足りなくて……でもあたしでも、遊ぶのはできるので」
なんだかいまいち要領を得ないが、要するにたまに帰る場所では、いつも相手をしているらしい。
だから慣れているのだろう。
同時に、面白いところだと思う。
いままでのいろいろなことを見るかぎり、ここでのルーフェイアの立場は、間違いなく「令嬢」に相当するものだ。
なのにそれが、走り回って手伝いをしているというのだから、かなり変わっている。
気さくなここの人たちといい、ふつうの「お屋敷」とは、少し違うようだった。
「私たちも……戻るか?」
他に誰も居なくなってがらんとした庭に、なんとなく言う。
「……ですね」
二人で日の傾きかけた庭を、屋敷のほうへ戻る。
夕暮れが迫るたび、少しだけ憂鬱だった。
休みの終わりが近い。
「あ、えっとね……あたしの、先輩。いい人よ?」
ルーフェイアの説明が通じたのだろう。
ひとりが私の前に来て、見上げた。
お世辞にも聡明とは言えない、そういう表情。
その顔が、笑顔に変わる。
――可愛かった。
初対面の私を、好きだと言っているのが分かる。
「……はじめまして」
言ってこの子の頭を撫でると、さらに嬉しそうな表情になった。
その笑顔につられて、私もつい笑う。
身体こそけっこう大きいが、シエラに居る小さい子たちと、変わらないと思った。
「グレイス様ー、すみません、助かりました」
声に振り返ると、見知らぬ女性が手を振りながら駆けてくる。
「あの子、やっと落ち着いて。ありがとうございました」
「ううん。あたしも久しぶりに、みんなに会えたし」
短いやり取りのあと、女性が子供たちに声をかける。
「さ、おやつあるから帰ろうね」
世話係なのだろう、子供たちは大喜びで女性のあとをついていった。
「やっぱりああいう子の世話は、いろいろ……たいへんなんだな」
「ええ……」
ルーフェイアは否定しない。つまり、そういうことなのだろう。
「いつも、あの子たちと遊ぶのか?」
「えっと、ここじゃない実家なら、いつもです。
うち、ともかく手が足りなくて……でもあたしでも、遊ぶのはできるので」
なんだかいまいち要領を得ないが、要するにたまに帰る場所では、いつも相手をしているらしい。
だから慣れているのだろう。
同時に、面白いところだと思う。
いままでのいろいろなことを見るかぎり、ここでのルーフェイアの立場は、間違いなく「令嬢」に相当するものだ。
なのにそれが、走り回って手伝いをしているというのだから、かなり変わっている。
気さくなここの人たちといい、ふつうの「お屋敷」とは、少し違うようだった。
「私たちも……戻るか?」
他に誰も居なくなってがらんとした庭に、なんとなく言う。
「……ですね」
二人で日の傾きかけた庭を、屋敷のほうへ戻る。
夕暮れが迫るたび、少しだけ憂鬱だった。
休みの終わりが近い。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
聖女なので公爵子息と結婚しました。でも彼には好きな人がいるそうです。
MIRICO
恋愛
癒しの力を持つ聖女、エヴリーヌ。彼女は聖女の嫁ぎ制度により、公爵子息であるカリス・ヴォルテールに嫁ぐことになった。しかしカリスは、ブラシェーロ公爵子息に嫁ぐ聖女、アティを愛していたのだ。
カリスはエヴリーヌに二年後の離婚を願う。王の命令で結婚することになったが、愛する人がいるためエヴリーヌを幸せにできないからだ。
勝手に決められた結婚なのに、二年で離婚!?
アティを愛していても、他の公爵子息の妻となったアティと結婚するわけにもいかない。離婚した後は独身のまま、後継者も親戚の子に渡すことを辞さない。そんなカリスの切実な純情の前に、エヴリーヌは二年後の離婚を承諾した。
なんてやつ。そうは思ったけれど、カリスは心優しく、二年後の離婚が決まってもエヴリーヌを蔑ろにしない、誠実な男だった。
やめて、優しくしないで。私が好きになっちゃうから!!
ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。誤字もお知らせくださりありがとうございます。修正します。ご感想お返事ネタバレになりそうなので控えさせていただきます。
異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い
八神 凪
ファンタジー
旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い
【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】
高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。
満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。
彼女も居ないごく普通の男である。
そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。
繁華街へ繰り出す陸。
まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。
陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。
まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。
魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。
次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。
「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。
困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。
元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。
なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。
『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』
そう言い放つと城から追い出そうとする姫。
そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。
残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。
「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」
陸はしがないただのサラリーマン。
しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。
今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――
クラス転移させられた元魔王
華乃アオ
ファンタジー
どーも、前世は魔王だったオレ、結城マオです。もう人として生きていくので納得したはずが、クラス転移で前世の世界に召喚されてしまいまして……。
ま、テンプレ満載で魔王倒してくれって?困りますよ、流石に身内は倒せませんって。いや、ホントに。
でもクラスメイトにどうやって説明を?裏切る形でいなくなるってのも少しね……。
じゃあ、どっちにもつかないことにします。うまく敵味方両方を操作しますから、ええ。
みそっかすちびっ子転生王女は死にたくない!
沢野 りお
ファンタジー
【書籍化します!】2022年12月下旬にレジーナブックス様から刊行されることになりました!
定番の転生しました、前世アラサー女子です。
前世の記憶が戻ったのは、7歳のとき。
・・・なんか、病的に痩せていて体力ナシでみすぼらしいんだけど・・・、え?王女なの?これで?
どうやら亡くなった母の身分が低かったため、血の繋がった家族からは存在を無視された、みそっかすの王女が私。
しかも、使用人から虐げられていじめられている?お世話も満足にされずに、衰弱死寸前?
ええーっ!
まだ7歳の体では自立するのも無理だし、ぐぬぬぬ。
しっかーし、奴隷の亜人と手を組んで、こんなクソ王宮や国なんか出て行ってやる!
家出ならぬ、王宮出を企てる間に、なにやら王位継承を巡ってキナ臭い感じが・・・。
えっ?私には関係ないんだから巻き込まないでよ!ちょっと、王族暗殺?継承争い勃発?亜人奴隷解放運動?
そんなの知らなーい!
みそっかすちびっ子転生王女の私が、城出・出国して、安全な地でチート能力を駆使して、ワハハハハな生活を手に入れる、そんな立身出世のお話でぇーす!
え?違う?
とりあえず、家族になった亜人たちと、あっちのトラブル、こっちの騒動に巻き込まれながら、旅をしていきます。
R15は保険です。
更新は不定期です。
「みそっかすちびっ子王女の転生冒険ものがたり」を改訂、再up。
2021/8/21 改めて投稿し直しました。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる