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第10話 空(うつほ)なる真実

孤島にて Episode:03

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「だー?」
「あ、えっとね……あたしの、先輩。いい人よ?」

 ルーフェイアの説明が通じたのだろう。
 ひとりが私の前に来て、見上げた。

 お世辞にも聡明とは言えない、そういう表情。
 その顔が、笑顔に変わる。

 ――可愛かった。

 初対面の私を、好きだと言っているのが分かる。

「……はじめまして」

 言ってこの子の頭を撫でると、さらに嬉しそうな表情になった。
 その笑顔につられて、私もつい笑う。

 身体こそけっこう大きいが、シエラに居る小さい子たちと、変わらないと思った。

「グレイス様ー、すみません、助かりました」

 声に振り返ると、見知らぬ女性が手を振りながら駆けてくる。

「あの子、やっと落ち着いて。ありがとうございました」
「ううん。あたしも久しぶりに、みんなに会えたし」

 短いやり取りのあと、女性が子供たちに声をかける。

「さ、おやつあるから帰ろうね」

 世話係なのだろう、子供たちは大喜びで女性のあとをついていった。

「やっぱりああいう子の世話は、いろいろ……たいへんなんだな」
「ええ……」

 ルーフェイアは否定しない。つまり、そういうことなのだろう。

「いつも、あの子たちと遊ぶのか?」

「えっと、ここじゃない実家なら、いつもです。
 うち、ともかく手が足りなくて……でもあたしでも、遊ぶのはできるので」

 なんだかいまいち要領を得ないが、要するにたまに帰る場所では、いつも相手をしているらしい。
 だから慣れているのだろう。

 同時に、面白いところだと思う。

 いままでのいろいろなことを見るかぎり、ここでのルーフェイアの立場は、間違いなく「令嬢」に相当するものだ。
 なのにそれが、走り回って手伝いをしているというのだから、かなり変わっている。

 気さくなここの人たちといい、ふつうの「お屋敷」とは、少し違うようだった。

「私たちも……戻るか?」

 他に誰も居なくなってがらんとした庭に、なんとなく言う。

「……ですね」

 二人で日の傾きかけた庭を、屋敷のほうへ戻る。

 夕暮れが迫るたび、少しだけ憂鬱だった。
 休みの終わりが近い。
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