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第10話 空(うつほ)なる真実
再び学院にて Episode:05
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ほどなくタシュアは、がっちりした扉の前に着いた。
ノックして、部屋の奥に声をかける。
「タシュア=リュウローンです」
「おはいりなさい」
相変わらず、のんびりとした声だ。
(年少組みでは、開けられないでしょうに。防御としても不十分ですし)
そんなことを思いながら、どれだけ歴史があるのかという、重厚な扉を開ける。
瞬間タシュアの表情が、さらに冷たさを増した。
目に入ったのは、いつものように穏やかな学院長と――机の隣に立つ女性。
シエラ本校の生徒なら、誰でも簡単にこの女性の素性を言い当てるだろう。
それほどまでに、ルーフェイアとよく似ていた。
ただし、それは外見だけだ。
「久しぶりねぇ、相変わらず元気そうじゃない」
野性味と妖艶さが同居した、独特の雰囲気。
学院生くらいの年頃なら、後を追いかけるものが出かねない。
――タシュアが気を惹かれた様子は、一切なかったが。
それどころか、嫌っているのを隠そうともしない。
「あなたに会わずに済むのなら、体調を崩していた方が良かったですね」
シュマーの歴戦のツワモノさえ震え上がらせる、ルーフェイアの母カレアナに向かって、タシュアは平然と言い放った。
さらに続ける。
「ただの茶飲み話に、逐一人を巻き込まないでいただきたいですね。
私は酔狂で出かける方と違って、時間が余っているわけではありませんので」
「はいはい、せっかくの夏休みなのに余裕のないこと言わないの。
そんなんじゃ、女の子に嫌われるわよ?」
皮肉を言ったのだが、相変わらずこの女性には通じなかったようだ。
以前に任務と称して連れ出されたときも、同じだった。
元から、そういう神経は通っていないのかもしれない。
「そんなものはジャマなだけだと、以前も言ったはずですが。
それとももう、少し前のことさえ思い出せないほど、耄碌されましたか?」
冷たさを通り越して、鋭利な刃物と化した声。
ルーフェイアならこれだけで、震え上がるだろう。
だがカレアナは、意に介さなかった。
ノックして、部屋の奥に声をかける。
「タシュア=リュウローンです」
「おはいりなさい」
相変わらず、のんびりとした声だ。
(年少組みでは、開けられないでしょうに。防御としても不十分ですし)
そんなことを思いながら、どれだけ歴史があるのかという、重厚な扉を開ける。
瞬間タシュアの表情が、さらに冷たさを増した。
目に入ったのは、いつものように穏やかな学院長と――机の隣に立つ女性。
シエラ本校の生徒なら、誰でも簡単にこの女性の素性を言い当てるだろう。
それほどまでに、ルーフェイアとよく似ていた。
ただし、それは外見だけだ。
「久しぶりねぇ、相変わらず元気そうじゃない」
野性味と妖艶さが同居した、独特の雰囲気。
学院生くらいの年頃なら、後を追いかけるものが出かねない。
――タシュアが気を惹かれた様子は、一切なかったが。
それどころか、嫌っているのを隠そうともしない。
「あなたに会わずに済むのなら、体調を崩していた方が良かったですね」
シュマーの歴戦のツワモノさえ震え上がらせる、ルーフェイアの母カレアナに向かって、タシュアは平然と言い放った。
さらに続ける。
「ただの茶飲み話に、逐一人を巻き込まないでいただきたいですね。
私は酔狂で出かける方と違って、時間が余っているわけではありませんので」
「はいはい、せっかくの夏休みなのに余裕のないこと言わないの。
そんなんじゃ、女の子に嫌われるわよ?」
皮肉を言ったのだが、相変わらずこの女性には通じなかったようだ。
以前に任務と称して連れ出されたときも、同じだった。
元から、そういう神経は通っていないのかもしれない。
「そんなものはジャマなだけだと、以前も言ったはずですが。
それとももう、少し前のことさえ思い出せないほど、耄碌されましたか?」
冷たさを通り越して、鋭利な刃物と化した声。
ルーフェイアならこれだけで、震え上がるだろう。
だがカレアナは、意に介さなかった。
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