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第10話 空(うつほ)なる真実
再び学院にて Episode:02
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(――ですがどちらにしても、いいことですか)
1人で行く気になったのなら、昔のトラウマが少しは薄れた事になる。
逆に誰かと行ったなら、そういう相手が増えたという事だ。
どちらだったにせよ、悪いことではない。
そこまで考えているうちに、カップが空になった。
眺めながらまた考える。
このまま資料の整理にかかってもいいのだが……お腹が空いた。
何か食べようにも、帰ったばかりのため魔冷庫は空だ。
なので食堂に行こうと部屋を出る。今ならまだ、朝食の提供時間内だ。
学院は夏休みでも、変わらず賑やかだった。
暑いのも相変わらずだが、真昼に比べればずっといいだろう。
今日のメニューはなんだろうなどと、他愛ないことを考えながら、食堂の前まで来た時だった。
「あ、タシュア、いいところに」
珍しい事に、呼び止められる。
シルファと同じクラスのディオンヌだった。
「何か用ですか?」
例によって感情のない冷たい声だったが、シルファとよく一緒に居て慣れているのだろう、彼女は気にする様子もない。
「用がなかったら、声かけないってば。
――シルファ、いま部屋?」
「知りません」
即答。これで会話は終わるはずだった。
「知らないわけないでしょ、一緒に旅行行ってた人が」
「彼女とは行っていませんよ。別行動です」
タシュアの返答に、ディオンヌが考え込む。
「じゃぁシルファ、どこ行っちゃったんだろ……」
「行き先など、提出された書類を見れば分かるはずですが」
日帰りでケンディクへ行くだけでも、外出の許可は必要なのだ。
ましてや長期の旅行なら、許可なしはあり得ない。
「上級隊の資格を持つあなたが、その程度も知らないのですか?」
ついでに毒舌を付け加えたが、ディオンヌはやはり気にしなかった。
「そりゃ知ってるわよ、そのくらい。じゃなくて、居場所が分かんなくなってるの!」
予想もしない答えに、耳を疑う。
「どういうことなのです?」
問いに「細かくは知らない」と前置きをしてから、ディオンヌが話し出した。
1人で行く気になったのなら、昔のトラウマが少しは薄れた事になる。
逆に誰かと行ったなら、そういう相手が増えたという事だ。
どちらだったにせよ、悪いことではない。
そこまで考えているうちに、カップが空になった。
眺めながらまた考える。
このまま資料の整理にかかってもいいのだが……お腹が空いた。
何か食べようにも、帰ったばかりのため魔冷庫は空だ。
なので食堂に行こうと部屋を出る。今ならまだ、朝食の提供時間内だ。
学院は夏休みでも、変わらず賑やかだった。
暑いのも相変わらずだが、真昼に比べればずっといいだろう。
今日のメニューはなんだろうなどと、他愛ないことを考えながら、食堂の前まで来た時だった。
「あ、タシュア、いいところに」
珍しい事に、呼び止められる。
シルファと同じクラスのディオンヌだった。
「何か用ですか?」
例によって感情のない冷たい声だったが、シルファとよく一緒に居て慣れているのだろう、彼女は気にする様子もない。
「用がなかったら、声かけないってば。
――シルファ、いま部屋?」
「知りません」
即答。これで会話は終わるはずだった。
「知らないわけないでしょ、一緒に旅行行ってた人が」
「彼女とは行っていませんよ。別行動です」
タシュアの返答に、ディオンヌが考え込む。
「じゃぁシルファ、どこ行っちゃったんだろ……」
「行き先など、提出された書類を見れば分かるはずですが」
日帰りでケンディクへ行くだけでも、外出の許可は必要なのだ。
ましてや長期の旅行なら、許可なしはあり得ない。
「上級隊の資格を持つあなたが、その程度も知らないのですか?」
ついでに毒舌を付け加えたが、ディオンヌはやはり気にしなかった。
「そりゃ知ってるわよ、そのくらい。じゃなくて、居場所が分かんなくなってるの!」
予想もしない答えに、耳を疑う。
「どういうことなのです?」
問いに「細かくは知らない」と前置きをしてから、ディオンヌが話し出した。
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