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第10話 空(うつほ)なる真実

ノネ湖にて Episode:19

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 いやそれ以前に、先輩は私が人を苦手としているのを、知っているはずだ。
 だとすると、なぜこんなことを言いだすのだろう?

 黙ってしまった私に、先輩が言う。

「嫌なら、診療所は手伝わなくて構わない。そういうのを一切抜きにして、ここへ来てくれないか?」

 ますます意味が分からない。

「誘っていただけるのは、ありがたいですけど……でも、あんまりそれじゃ、来る意味が……」

 まさかここへ来て、毎日観光するわけにもいかないだろう。
 それから思い当たる。

「もしかして、この村の……警護に、ですか?」

 だとしても何年も先の話で、それまでにどこかと契約するだろうから、私の入る余地があるかどうか。
 とはいえ、これならそう悪い話ではないだろう。

 のんびりしたところだし、今日のような騒ぎはそう多くない。
 医師をしている先輩の口添えがあれば、雇ってもらえそうだ。

 もちろん、それまで先輩がここに居れば、だが。

「それなら、考えてみます。それでもし、雇ってもらえそうなら……」
「そういう話じゃないんだ!」

 とつぜん先輩が語気を荒くして、私は思わず黙った。
 何か、根本的に食い違っているらしい。

「えぇと……つまり、どういう……」
「だからそういうのは抜きにして、一緒にここで暮らさないか、って言ってるんだ」
「……え?」

 さっき以上に意味が分からなくて、考え込む。
 住むところを提供してくれるのかとも思ったが、なんとなく違う気がした。

 悩む私に、先輩がさらに言う。

「だから、タシュアと別れたんだろう?」
「……勝手に決めないでもらえますか?」

 自分で自分の声が、冷たくなるのが分かった。

「勝手にも何も、夏休みの旅行にタシュアとじゃなく、後輩と来てるじゃないか。そう言うことなんだろう?」
「いい加減にしてください!」

「たしかにタシュアとは来てませんけど、それとこれとは別です!」

 なんで私が、こんな思いをしなければいけないのか。

「あとは、自分でやりますから! 失礼しますっ!」

 鞄を掴んで部屋を飛び出す。
 後ろで何か先輩が言ってるようだが、聞く気もなかった。

 なんで私が、またそう思う。

 せっかくお金を貯めて予約も取ったのに、タシュアが勝手に出かけたせいで台無しだ。
 しかも、こんなことまで言われるなんて……。

 新しい部屋のドアを、八つ当たり気味に勢いよく開ける。

「……先輩?」

 私の勢いに驚いたのだろう、どこか怯えたような表情の、ルーフェイアが居た。

「あの……?」

 強引に抱き寄せる。

 まるで枕か何かの代わりだが、この子は逃げなかった。
 満足そうに、身体を寄せてくる。

 こんな私に対する、絶対の信頼。

 やわらかい金髪を撫でているうち、気が静まってきた。
 伝わってくる子供特有の高い体温が、私の中の何かを溶かしていく。

「――ルーフェイア、何が食べたい?」

 訊くと、この子がきょとんとした表情を見せた。

「えっと、えっと……」

 急に言われて焦っているのだろう、困るようすが相変わらず可愛らしい。
 この子が文句を言わずについてきてくれて良かった、そう思いながら言う。

「今日は、とびっきり美味しいものにしよう」
「はい!」

 ルーフェイアの顔に、嬉しそうな微笑みが広がった。
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