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第10話 空(うつほ)なる真実
ルアノンにて Episode:09
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ただルーフェイアは、口をすべらせたことに気づいていなかった。
振り返って竜舎の管理人を見てみたが、彼も向こうで走竜の世話をしていて、聞いていなかった。
このまま知らぬふりで、黙っていようと思う。
本人が自分の戦闘能力を嫌っているのは、一目瞭然だ。
それに前線というのは私も任務で出たことがあるが、とても過酷で……正気でいられない者までいる。
何よりあのタシュアでさえ、激戦の最前線でのことは、必要がなければ口にしない。
そういう場所をうっかり口にして、この優しい子に思いださせたくなかった。
ルーフェイアとイマドは、ほほえましい会話を続けている。
「まぁいいや、今からじゃめんどくせぇし。てかたぶん、余ってる走竜いねぇだろうし。ほら、先に乗れよ」
「うん……」
口でそう言いながらも、この子がためらった。
「どした?」
「この子、暴れない……よね?」
さすがのルーフェイアも、凶悪そうな外見に恐れをなしたようだ。
「あー、コイツ見かけアレだけど、へーきへーき。よく言っといたし」
「……言葉が走竜に通じるのか?」
思わず突っ込む。
言葉が通じるくらいなら、暴れる走竜に手を焼く騒ぎなど、起こるわけがない。
そもそも御するのが難しく訓練なしでは扱えないから、「竜使い」なる仕事まであるのだ。
「まぁ、細かい事はいいじゃないですか」
「いいのか……?」
何か納得がいかないが、深く考えないほうがいい気はした。
この後輩、何と言うか妙なところで、常人とかけ離れたところがあるのだ。
ルーフェイアのほうはあっさり納得したようで、走竜に近づき、手をかけた。
そのまま軽々とまたがる。乗っていたというのは、本当のようだ。
「先輩、行けます?」
「ああ」
私も走竜にまたがった。
傭兵隊に入っている学院生は、カリキュラムに入っているから、走竜には全員乗れる。
「気を付けて行ってこいよー」
竜舎のおじさんの声を背に、走竜たちが歩き出した。
「下りじゃないんだな」
「あの丘まで登って、その先なんですよ」
そんな会話を交わしながら、急な上り坂を行く。
下から見上げていたときは、さほどでもないように見えたのに、実際に歩くとかなり長い。
「うわぁ……」
丘の上まで差し掛かったところで、ルーフェイアが声をあげた。
振り返って竜舎の管理人を見てみたが、彼も向こうで走竜の世話をしていて、聞いていなかった。
このまま知らぬふりで、黙っていようと思う。
本人が自分の戦闘能力を嫌っているのは、一目瞭然だ。
それに前線というのは私も任務で出たことがあるが、とても過酷で……正気でいられない者までいる。
何よりあのタシュアでさえ、激戦の最前線でのことは、必要がなければ口にしない。
そういう場所をうっかり口にして、この優しい子に思いださせたくなかった。
ルーフェイアとイマドは、ほほえましい会話を続けている。
「まぁいいや、今からじゃめんどくせぇし。てかたぶん、余ってる走竜いねぇだろうし。ほら、先に乗れよ」
「うん……」
口でそう言いながらも、この子がためらった。
「どした?」
「この子、暴れない……よね?」
さすがのルーフェイアも、凶悪そうな外見に恐れをなしたようだ。
「あー、コイツ見かけアレだけど、へーきへーき。よく言っといたし」
「……言葉が走竜に通じるのか?」
思わず突っ込む。
言葉が通じるくらいなら、暴れる走竜に手を焼く騒ぎなど、起こるわけがない。
そもそも御するのが難しく訓練なしでは扱えないから、「竜使い」なる仕事まであるのだ。
「まぁ、細かい事はいいじゃないですか」
「いいのか……?」
何か納得がいかないが、深く考えないほうがいい気はした。
この後輩、何と言うか妙なところで、常人とかけ離れたところがあるのだ。
ルーフェイアのほうはあっさり納得したようで、走竜に近づき、手をかけた。
そのまま軽々とまたがる。乗っていたというのは、本当のようだ。
「先輩、行けます?」
「ああ」
私も走竜にまたがった。
傭兵隊に入っている学院生は、カリキュラムに入っているから、走竜には全員乗れる。
「気を付けて行ってこいよー」
竜舎のおじさんの声を背に、走竜たちが歩き出した。
「下りじゃないんだな」
「あの丘まで登って、その先なんですよ」
そんな会話を交わしながら、急な上り坂を行く。
下から見上げていたときは、さほどでもないように見えたのに、実際に歩くとかなり長い。
「うわぁ……」
丘の上まで差し掛かったところで、ルーフェイアが声をあげた。
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