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第10話 空(うつほ)なる真実

アヴァンにて Episode:19

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「おや、どうしたんだい? まさか気に入らなかったのか?」
「いえ、あの、魚を……」

 なんだか気押されながらも答える。

「魚? うちのは旨いぞ。それとも、そんなに不味いか?」

 更に予期しない方向へ話が転がった。

「いえ、ですから、その……もう1匹……」
「おぉそうか! そうだろそうだろ、なんせうちのは旨いからなー」

 いろいろな意味で、思い込みの激しい人のようだ。

「ほら、持ってけ持ってけ。
 ん? たった1匹か? ダメだダメだ、育ち盛りなんだから、せめて1人1匹づつだろ。
 え? あの子じゃ食べきれない? あーじゃぁ、この小さいのを持ってきな」

 また押し付けられる。

 だがさすがに、2度もタダというわけにはいかない。
 それをどうにか、屋台の店主にやっと伝えると、彼が笑い出した。

「律儀なお姉ちゃんだなぁ。分かったよ、こんだけ置いてきな」

 言われたとおりのコインを置いて、ルーフェイアのところへと戻る。

「――? 先輩も、ですか?」
「いや……まぁ、そうだな」

 いきさつを話そうかとも思ったが、そうするとまたルーフェイアが落ち込みそうな気がして、私は言葉を濁した。

「ともかく、食べないか? 熱いうちがいいだろうし」
「はい」

 不思議そうな顔をしていたこの子だが、それ以上は言ってこなかった。
 素直に魚に口をつける。

 ――タシュアなら、思い切り何か突っ込んだだろうな。

 彼はこういうことは、絶対に見逃さない。

 瞬間、また怒りがわいた。
 タシュアのために、せっかくあれだけ用意したのに……。

「あ、あの、先輩?」

 はっと気づくと、どこか怯えた風の、華奢な後輩が目に入った。
 心持ち身をすくめ、おどおどと視線を落とすルーフェイアは、今にも泣き出しそうだ。

 驚かせて、怖がらせたのだと悟る。

「――ルーフェイア」

 そっと呼んで、抱き寄せた。

「悪かった。私の……個人的なことだ。ルーフェイアは悪くない」

 腕の中から、安心した様子が伝わってくる。
 きっと自分が何かしたせいだと、勘違いしたのだろう。

 可愛かった。そして可哀想だった。

 あれに似た気持ちは、私も覚えがある。
 ずっと昔だが、今も時折心をよぎって、辛くなることがある。

 息をひそめて。
 目立たないように、怒らせないように、追い出されないように。

 そうやってただ黙って、どこかの隅で過ごす日々。
 学院へ来る、ずっと前の話だ。

 脅かされることのない居場所が欲しかったのだと、今ならば分かる。
 だが当時はそんなことは分からず、ただただ縮こまっているだけだった。

 この子もまた、そうなのだろう。

 ――ならば、この旅行でなおさら。

 楽しませてやって、笑顔が見たい。心からそう思った。
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