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第10話 空(うつほ)なる真実

アヴァンにて Episode:10

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「……泳ぎたかったか?」
「あの、えっと……ごめんなさい……」

 しかもなぜか、謝り始めてしまった。
 慌ててなだめる。

 この子のいつものパターンからすると、ここで放っておくと泣き出すのだ。

 ――タシュアはわざと追い詰めて、泣かせるが。

 タシュアの事を思い出した瞬間また腹が立ったが、押さえ込んだ。
 今はルーフェイアの事が先だ。


「だからその、泳ぎたくなければ、それでいいんだ。
 他にも見るところは、幾らでもあるわけだから……」

 だがなだめても、ルーフェイアは謝るのをやめなかった。
 どうも当人自身が、混乱しているようだ。

 私も口で言うのが面倒になってくる。

 もともと口下手なのだ。
 気の利いたことなど、言えるわけもない。

 ――あぁ、そうか。

 言葉がダメなら別の手段を使えばいいのだと、やっと私は気付いた。

「ルーフェイア」
「――?」

 名前を呼ばれて、この子が一瞬止まった隙に、抱き寄せる。

 最初は驚いた様子だったが、元が甘えたがりのルーフェイアだ。
 すぐにぴたりと身体を寄せた。

 細くて華奢な身体から、温かさが伝わってくる。

 その体温になぜか、すごくほっとした。
 母親が子供を抱いたら、こんな感じなのかもしれない。

 腕の中で泣くのをやめたるルーフェイアに、言い聞かせる。

「謝らなくていい。分かるな?」
「……はい」

 うなずいて大人しくしているこの子に、今度は順を追って話していく。

「どうする? 海へ行くか?」
「はい」

 昨日もそうだったが、これにははっきりとした返事が返って来た。
 本当に海自体は好きなようだ。

 ともかく、これさえ分かれば後は早い。

「ならルーフェイア、午前中は買い物と観光でもして、午後に海に行かないか? 暑いからちょうどいいはずだ。
 水着は、途中で買えばいいだろうし」

「――はい♪」

 ルーフェイアが嬉しそうな笑顔になる。

 ――こういう表情も、するんだな。

 もともと綺麗な子だが、笑顔を見せると格別だ。

 逆に言えばそれだけ、笑顔を見せることが少ない子だとも言える。
 だったら尚更、この旅行で喜ばせてやりたかった。

 今日も後で泳ぎを教えて、喜ばせてやろう。
 そんなことを考えているところへちょうど、朝食の用意が出来たと知らせが来て、2人で並びの食堂へ向かった。
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