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第10話 空(うつほ)なる真実
学院にて Episode:06
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◇Tasha Side
ルーフェイアが持ってきた本は、タシュアにとって読み応えのあるものだった。
なにしろあの有名な歴史書『ネゴリ記の解釈』の、それも初版本だ。
話では先日シュマーの実家で発見――こんな貴重なものを埋もれさせるなと思う――されたとかで、ルーフェイアが読みたがったために、こちらまで送られてきたらしい。
しかもそれをわざわざ、「読み終わったから」とタシュアに貸しに来たのだ。
彼のほうも、こんな貴重な本を手にする機会を逃がすわけがなく、素直に?借りたという次第だった。
――もっともその際、ルーフェイアが泣かされたのだが。
よく毒舌の餌食になっているルーフェイアは、すんなり受け取ってもらえるとは思っていなかったらしい。
「ありがとうございます」と礼を言ったタシュアに対して、露骨なほどに驚いた表情を見せ、すかさず突っ込まれたのだ。
ただそれはそれとして、この本が興味深いことには変わりない。
(後で、現代版とでも読み合わせてみますか)
記憶違いでなければ、この本は何度か改訂を重ねていたはずだ。
だとすれば、当時と今とでは違う解釈が載っている可能性もある。
現代版はここの図書館にあったはずだから、あとで行けば見つかるだろう。
何よりあの手の本を、好んで借りる人間が居るとは思えない。
シルファは結局何も訊かないまま、どこかへと出かけてしまった。
もともとが、大したことではなかったらしい。
それからふと気付く。
(そういえば最近、彼女はよく独りで出かけますね)
シルファは基本的に、ひとりでいることを嫌う。
生まれてすぐに両親を亡くし、親戚中をたらいまわしにされたせいで、ひとりになることが捨てられることと結びついてしまったらしい。
まだ自力で生きていけない幼児にとって、特定の庇護者がないうえ、いつ捨てられるかわらかないという状況は、恐怖でしかない。
だからそれを避けたい一心で人の姿を常に求めるようになり、併せてトラウマ化したのだろう。
それなのにこのところ彼女は、タシュアなしで出かけることが多かった。
(まぁ何か、企んでいるようですが)
シルファが黙っているので追求せずにいるが、こっそり何かしているのは間違いない。
(今度はなんですかね?)
じつを言えばこういうことは、今に始まった話ではない。
案外あれでシルファは、理屈に合わない妙なことをするのだ。
だが、心配はしていなかった。
どうせ企んでいるといっても、何か他愛ないことで……大抵はちょっと驚かそうというだけだ。
いつぞやはさすがに唖然とさせられたが、それ以外はいつも「可愛い」の範囲で済んでいる。
そしてそれに乗った振りをするのは、タシュアは嫌いではなかった。
そのうち準備が整えば、シルファのほうから何か言ってくるだろう――そう思いながら、タシュアはまた貴重な本に視線を落とした。
ルーフェイアが持ってきた本は、タシュアにとって読み応えのあるものだった。
なにしろあの有名な歴史書『ネゴリ記の解釈』の、それも初版本だ。
話では先日シュマーの実家で発見――こんな貴重なものを埋もれさせるなと思う――されたとかで、ルーフェイアが読みたがったために、こちらまで送られてきたらしい。
しかもそれをわざわざ、「読み終わったから」とタシュアに貸しに来たのだ。
彼のほうも、こんな貴重な本を手にする機会を逃がすわけがなく、素直に?借りたという次第だった。
――もっともその際、ルーフェイアが泣かされたのだが。
よく毒舌の餌食になっているルーフェイアは、すんなり受け取ってもらえるとは思っていなかったらしい。
「ありがとうございます」と礼を言ったタシュアに対して、露骨なほどに驚いた表情を見せ、すかさず突っ込まれたのだ。
ただそれはそれとして、この本が興味深いことには変わりない。
(後で、現代版とでも読み合わせてみますか)
記憶違いでなければ、この本は何度か改訂を重ねていたはずだ。
だとすれば、当時と今とでは違う解釈が載っている可能性もある。
現代版はここの図書館にあったはずだから、あとで行けば見つかるだろう。
何よりあの手の本を、好んで借りる人間が居るとは思えない。
シルファは結局何も訊かないまま、どこかへと出かけてしまった。
もともとが、大したことではなかったらしい。
それからふと気付く。
(そういえば最近、彼女はよく独りで出かけますね)
シルファは基本的に、ひとりでいることを嫌う。
生まれてすぐに両親を亡くし、親戚中をたらいまわしにされたせいで、ひとりになることが捨てられることと結びついてしまったらしい。
まだ自力で生きていけない幼児にとって、特定の庇護者がないうえ、いつ捨てられるかわらかないという状況は、恐怖でしかない。
だからそれを避けたい一心で人の姿を常に求めるようになり、併せてトラウマ化したのだろう。
それなのにこのところ彼女は、タシュアなしで出かけることが多かった。
(まぁ何か、企んでいるようですが)
シルファが黙っているので追求せずにいるが、こっそり何かしているのは間違いない。
(今度はなんですかね?)
じつを言えばこういうことは、今に始まった話ではない。
案外あれでシルファは、理屈に合わない妙なことをするのだ。
だが、心配はしていなかった。
どうせ企んでいるといっても、何か他愛ないことで……大抵はちょっと驚かそうというだけだ。
いつぞやはさすがに唖然とさせられたが、それ以外はいつも「可愛い」の範囲で済んでいる。
そしてそれに乗った振りをするのは、タシュアは嫌いではなかった。
そのうち準備が整えば、シルファのほうから何か言ってくるだろう――そう思いながら、タシュアはまた貴重な本に視線を落とした。
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