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第9話 至高の日常

開始 Episode:06

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「病室はどこかな?
 ――あ、もしかして夕方、検査入院する予定だった子なの?」

「あ、はい……」

 上手く作ってくれた話に乗る。

「待て。親はどこだ」

 犯人のもうひとりが、鋭く訊ねた。

 ――見破られないといいんだけど。

 内心そんなことを思いながら、あたしは用意していた答えを口にする。
 下を向いたまま、なるべく怯えたふうに。「その、あとから荷物……持ってくるって……」
「あらら。それであなただけ、ひとりになっちゃったのね」

 看護士さんが、あたしの話を上手く補足してくれた。

「さ、ともかくこっちへいらっしゃい。部屋、確かめてあげるから」
「それはダメだ」

 いっしょに病室を出ようとしたところで、鋭く止められる。

「ガキは全員、こっちで預かる」
「でも!」
「黙れ。死にたいのか?」

 犯人がこっちへ銃を向けた。

「言うとおりにしないなら、今ここでガキと一緒に殺してやる。
 ――さぁ、どうする」

 看護士さんが、すまなそうにあたしから離れた。

「ごめんね……」

 この人、本当に度胸がある。
 この状況で、訓練も受けていないのにこんな演技ができるなんて、そうとうの精神力だ。

 ただあたしは、下を向いたまま答えなかった。
 なるべく怖がってるようにしなくちゃいけないのに、答えたら、かえって怪しまれるだろう。

「来い、こっちだ」

 乱暴に腕を引っ張られて、思わず顔をしかめる。

「ちょっと、なんてことするの! 相手は子供なのよ、せめてそっとやりなさい!」
「うるさい」

 看護士さんの言葉に犯人はそう言ったけど、腕は放してもらえた。ただ代わりに、背中に銃を突き付けられる。

「さっさと歩――待て、その骨董品は置いていくんだ」
「いやっ!」

 太刀を取り上げられそうになって、あたしは騒いだ。

「これはダメっ、兄さんの形見――」
「ちょっと、そのくらい持たせてやりなさいよ」

 看護士さんも事情が分かっているから、上手く加勢してくれる。

「こんな華奢な子なのよ、なにか出来るわけないでしょう? それにそんな大事なもの取り上げたら、きっとずっと泣いてるわよ」
「………」

 犯人たちが沈黙した。子供に泣かれるのは、嫌なんだろう。

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