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第9話 至高の日常

開始 Episode:03

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「掴まったわね? そうしたら、目をつぶって」
「分かりました」

 投光器がない状態での屋上は、そうとう暗くなるはずだ。
 そこへ明るい場所に慣れた目で飛び込んだら、まともに動けなくなる。

 しっかり目を閉じてから、顔を腕と機体に押し付けた。
 これも、見つからないようにするためだ。

 あたしの肌は白いから、夜はとくに目立つ。
 けど潜入して「患者だ」と言うためには、顔を汚してしまうことができない。だからこうして隠すしか、方法がなかった。

 ただ服やグローブはもともと暗緑色だし、髪はフードの下に入れ込んでしまったから心配ない。

「――5分前だ」

 誰かが告げる声――たぶんウラグ先輩――がした。
 巨鳥が一斉に、翼を広げる。

「ここから垂直に上昇、病院屋上の高さまで合わせてから水平飛行に移るわ。潜入する病室はこの真っ直ぐ前方だから、進路もこのまま真っ直ぐ。
 ただ病室自体はここから見て、中庭の向こう側。だから降りたら、真後ろから降下よ。いいわね?」

「はい」

 目を閉じたまま答える。打ち合わせ済みのことだけど、確認は多いほどいい。
 そして息詰まるような時間の後。

「――お嬢さんたち、行くよ」

 巨鳥の騎手さん(?)が声をかけてきて、身体が下へ押し付けられるような感覚が来た。
 けど目を閉じているから、周りがどうなっているかは分からない。

「大丈夫かい?」

 心配してくれたんだろう、騎手さんがまた声をかけてくれる。

「はい、大丈夫です」
「OK。そろそろ水平飛行に移る」

 同時に下へ押し付けられる感覚がなくなって、風が前から来た。病院までは、あと少しのはずだ。

 と、耳を突き刺すような爆発音が響いた。
 駐車場に待機しているグループが、予定通りに欺瞞行動を開始したんだろう。

 これでたぶん報道関係者も野次馬も、そっちへ気を取られて病院は見ない。
 そこへ更に、投光機の消えた暗闇が重なる手筈だ。

 案の定、少ししたところでまた声がかかる。

「投光器が消えた。目を開けて」
「はい」

 言われたとおりにする。投光器が消えてしまえば、目を開けても問題ない。

 もう屋上は目前だった。
 騎手さんが巨鳥を操作して、ギリギリのところで柵を越える。

 ――あの窓なんだ。

 中庭の向こう側、ちょうど正面にひとつ、明かりの点いていない窓があった。
 その位置を頭に叩きこむ。
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