525 / 743
第9話 至高の日常
開始 Episode:03
しおりを挟む
「掴まったわね? そうしたら、目をつぶって」
「分かりました」
投光器がない状態での屋上は、そうとう暗くなるはずだ。
そこへ明るい場所に慣れた目で飛び込んだら、まともに動けなくなる。
しっかり目を閉じてから、顔を腕と機体に押し付けた。
これも、見つからないようにするためだ。
あたしの肌は白いから、夜はとくに目立つ。
けど潜入して「患者だ」と言うためには、顔を汚してしまうことができない。だからこうして隠すしか、方法がなかった。
ただ服やグローブはもともと暗緑色だし、髪はフードの下に入れ込んでしまったから心配ない。
「――5分前だ」
誰かが告げる声――たぶんウラグ先輩――がした。
巨鳥が一斉に、翼を広げる。
「ここから垂直に上昇、病院屋上の高さまで合わせてから水平飛行に移るわ。潜入する病室はこの真っ直ぐ前方だから、進路もこのまま真っ直ぐ。
ただ病室自体はここから見て、中庭の向こう側。だから降りたら、真後ろから降下よ。いいわね?」
「はい」
目を閉じたまま答える。打ち合わせ済みのことだけど、確認は多いほどいい。
そして息詰まるような時間の後。
「――お嬢さんたち、行くよ」
巨鳥の騎手さん(?)が声をかけてきて、身体が下へ押し付けられるような感覚が来た。
けど目を閉じているから、周りがどうなっているかは分からない。
「大丈夫かい?」
心配してくれたんだろう、騎手さんがまた声をかけてくれる。
「はい、大丈夫です」
「OK。そろそろ水平飛行に移る」
同時に下へ押し付けられる感覚がなくなって、風が前から来た。病院までは、あと少しのはずだ。
と、耳を突き刺すような爆発音が響いた。
駐車場に待機しているグループが、予定通りに欺瞞行動を開始したんだろう。
これでたぶん報道関係者も野次馬も、そっちへ気を取られて病院は見ない。
そこへ更に、投光機の消えた暗闇が重なる手筈だ。
案の定、少ししたところでまた声がかかる。
「投光器が消えた。目を開けて」
「はい」
言われたとおりにする。投光器が消えてしまえば、目を開けても問題ない。
もう屋上は目前だった。
騎手さんが巨鳥を操作して、ギリギリのところで柵を越える。
――あの窓なんだ。
中庭の向こう側、ちょうど正面にひとつ、明かりの点いていない窓があった。
その位置を頭に叩きこむ。
「分かりました」
投光器がない状態での屋上は、そうとう暗くなるはずだ。
そこへ明るい場所に慣れた目で飛び込んだら、まともに動けなくなる。
しっかり目を閉じてから、顔を腕と機体に押し付けた。
これも、見つからないようにするためだ。
あたしの肌は白いから、夜はとくに目立つ。
けど潜入して「患者だ」と言うためには、顔を汚してしまうことができない。だからこうして隠すしか、方法がなかった。
ただ服やグローブはもともと暗緑色だし、髪はフードの下に入れ込んでしまったから心配ない。
「――5分前だ」
誰かが告げる声――たぶんウラグ先輩――がした。
巨鳥が一斉に、翼を広げる。
「ここから垂直に上昇、病院屋上の高さまで合わせてから水平飛行に移るわ。潜入する病室はこの真っ直ぐ前方だから、進路もこのまま真っ直ぐ。
ただ病室自体はここから見て、中庭の向こう側。だから降りたら、真後ろから降下よ。いいわね?」
「はい」
目を閉じたまま答える。打ち合わせ済みのことだけど、確認は多いほどいい。
そして息詰まるような時間の後。
「――お嬢さんたち、行くよ」
巨鳥の騎手さん(?)が声をかけてきて、身体が下へ押し付けられるような感覚が来た。
けど目を閉じているから、周りがどうなっているかは分からない。
「大丈夫かい?」
心配してくれたんだろう、騎手さんがまた声をかけてくれる。
「はい、大丈夫です」
「OK。そろそろ水平飛行に移る」
同時に下へ押し付けられる感覚がなくなって、風が前から来た。病院までは、あと少しのはずだ。
と、耳を突き刺すような爆発音が響いた。
駐車場に待機しているグループが、予定通りに欺瞞行動を開始したんだろう。
これでたぶん報道関係者も野次馬も、そっちへ気を取られて病院は見ない。
そこへ更に、投光機の消えた暗闇が重なる手筈だ。
案の定、少ししたところでまた声がかかる。
「投光器が消えた。目を開けて」
「はい」
言われたとおりにする。投光器が消えてしまえば、目を開けても問題ない。
もう屋上は目前だった。
騎手さんが巨鳥を操作して、ギリギリのところで柵を越える。
――あの窓なんだ。
中庭の向こう側、ちょうど正面にひとつ、明かりの点いていない窓があった。
その位置を頭に叩きこむ。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
【書籍化進行中】魔法のトランクと異世界暮らし
猫野美羽
ファンタジー
※書籍化進行中です。
曾祖母の遺産を相続した海堂凛々(かいどうりり)は原因不明の虚弱体質に苦しめられていることもあり、しばらくは遺産として譲り受けた別荘で療養することに。
おとぎ話に出てくる魔女の家のような可愛らしい洋館で、凛々は曾祖母からの秘密の遺産を受け取った。
それは異世界への扉の鍵と魔法のトランク。
異世界の住人だった曾祖母の血を濃く引いた彼女だけが、魔法の道具の相続人だった。
異世界、たまに日本暮らしの楽しい二拠点生活が始まる──
◆◆◆
ほのぼのスローライフなお話です。
のんびりと生活拠点を整えたり、美味しいご飯を食べたり、お金を稼いでみたり、異世界旅を楽しむ物語。
※カクヨムでも掲載予定です。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました
カティア
ファンタジー
疲れ切った現実から逃れるため、VRMMORPG「アナザーワールド・オンライン」に没頭する俺。自由度の高いこのゲームで憧れの料理人を選んだものの、気づけばゲーム内でも完全に負け組。戦闘職ではないこの料理人は、ゲームの中で目立つこともなく、ただ地味に日々を過ごしていた。
そんなある日、フレンドの誘いで参加したレベル上げ中に、運悪く出現したネームドモンスター「猛き猪」に遭遇。通常、戦うには3パーティ18人が必要な強敵で、俺たちのパーティはわずか6人。絶望的な状況で、肝心のアタッカーたちは早々に強制ログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク役クマサンとヒーラーのミコトさん、そして料理人の俺だけ。
逃げるよう促されるも、フレンドを見捨てられず、死を覚悟で猛き猪に包丁を振るうことに。すると、驚くべきことに料理スキルが猛き猪に通用し、しかも与えるダメージは並のアタッカーを遥かに超えていた。これを機に、負け組だった俺の新たな冒険が始まる。
猛き猪との戦いを経て、俺はクマサンとミコトさんと共にギルドを結成。さらに、ある出来事をきっかけにクマサンの正体を知り、その秘密に触れる。そして、クマサンとミコトさんと共にVチューバー活動を始めることになり、ゲーム内外で奇跡の連続が繰り広げられる。
リアルでは無職、ゲームでは負け組職業だった俺が、リアルでもゲームでも自らの力で奇跡を起こす――そんな物語がここに始まる。
精霊王女になった僕はチートクラスに強い仲間と世界を旅します
カオリグサ
ファンタジー
病で幼いころから病室から出たことがなかった少年
生きるため懸命にあがいてきたものの、進行が恐ろしく速い癌によって体が蝕まれ
手術の甲斐もむなしく死んでしまった
そんな生を全うできなかった少年に女神が手を差し伸べた
女神は少年に幸せになってほしいと願う
そして目覚めると、少年は少女になっていた
今生は精霊王女として生きることとなった少女の
チートクラスに強い仲間と共に歩む旅物語
レディース異世界満喫禄
日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。
その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。
その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!
男女比崩壊世界で逆ハーレムを
クロウ
ファンタジー
いつからか女性が中々生まれなくなり、人口は徐々に減少する。
国は女児が生まれたら報告するようにと各地に知らせを出しているが、自身の配偶者にするためにと出生を報告しない事例も少なくない。
女性の誘拐、売買、監禁は厳しく取り締まられている。
地下に監禁されていた主人公を救ったのはフロムナード王国の最精鋭部隊と呼ばれる黒龍騎士団。
線の細い男、つまり細マッチョが好まれる世界で彼らのような日々身体を鍛えてムキムキな人はモテない。
しかし転生者たる主人公にはその好みには当てはまらないようで・・・・
更新再開。頑張って更新します。
女神のチョンボで異世界に召喚されてしまった。どうしてくれるんだよ?
よっしぃ
ファンタジー
僕の名前は 口田 士門くちた しもん。31歳独身。
転勤の為、新たな赴任地へ車で荷物を積んで移動中、妙な光を通過したと思ったら、気絶してた。目が覚めると何かを刎ねたのかフロントガラスは割れ、血だらけに。
吐き気がして外に出て、嘔吐してると化け物に襲われる…が、武器で殴られたにもかかわらず、服が傷ついたけど、ダメージがない。怖くて化け物を突き飛ばすと何故かスプラッターに。
そして何か画面が出てくるけど、読めない。
さらに現地の人が現れるけど、言葉が理解できない。
何なんだ、ここは?そしてどうなってるんだ?
私は女神。
星系を管理しているんだけど、ちょっとしたミスで地球という星に居る勇者候補を召喚しようとしてミスっちゃって。
1人召喚するはずが、周りの建物ごと沢山の人を召喚しちゃってて。
さらに追い打ちをかけるように、取り消そうとしたら、召喚した場所が経験値100倍になっちゃってて、現地の魔物が召喚した人を殺しちゃって、あっという間に高レベルに。
これがさらに上司にばれちゃって大騒ぎに・・・・
これは女神のついうっかりから始まった、異世界召喚に巻き込まれた口田を中心とする物語。
旧題 女神のチョンボで大変な事に
誤字脱字等を修正、一部内容の変更及び加筆を行っています。また一度完結しましたが、完結前のはしょり過ぎた部分を新たに加え、執筆中です!
前回の作品は一度消しましたが、読みたいという要望が多いので、おさらいも含め、再び投稿します。
前回530話あたりまでで完結させていますが、8月6日現在約570話になってます。毎日1話執筆予定で、当面続きます。
アルファポリスで公開しなかった部分までは一気に公開していく予定です。
新たな部分は時間の都合で8月末あたりから公開できそうです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる