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第9話 至高の日常

急転 Episode:06

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「あ、ども♪」
「では、遠慮なく」

 言って手を伸ばしかけて、不意にタシュアは止めた。

「まったく、よりによって、ですか」

「マジ、何考えてんですかね。
 ――あれ、先輩食わないんですか?」

 突然タシュアとイマド――彼はもう一つ口に運んでいる――とが、何かの話を始める。

「この状況で満腹にしたりすれば、いざと言うときに動けませんからね」
「けど、ひとつくらい」

 二人は分かって話をしているが、私には何のことかさっぱり分からなかった。

「その、何の話を……してるんだ?」

「すぐに分かります。
 それよりシルファ、ちゃんと武器は手元にありますか?」

「え?」

 同時に病棟内に悲鳴が響く。
 続いて、発砲音。

「なっ……!」

 慌てて悲鳴のしたほうへ駆け出そうとした私を、だがタシュアは止めた。

「待ちなさい、シルファ。今下手に出て行っては、状況を悪くしかねません」
「だがっ!」
「待つんです」

 再度、タシュアが引き止める。

「状況をよく見てごらんなさい。
 確かに発砲はありましたが、怪我人が出た様子はありません。ですからこれは威嚇です」

 タシュアが冷静に指摘した。

「ここがどこかわきまえないような頭の悪い連中ですが、刺激しなければ今のところ、これ以上の騒ぎを起こす気はないのでしょう」

「……わかった」

 タシュアの言うことが正しい。
 納得はしきれないものの、私はタシュアのベッドの端に腰掛けた。

「それで……どうするんだ? それより、何が起こったんだ?」

「テログループによる占拠、というのが、いちばん可能性が高いでしょうね。
 銀行ならともかく、病院のしかもこんな高い階で強盗と言うのは、現実的ではありませんし」

「この国でか?!」

 ユリアスはともかく平和な国だ。
 中でもケンディクは、気候も温暖だし、犯罪率も低い。だから観光客も、よほどの場所でなければ安心して出歩ける。

 その街で、テロなど……。

「世の中絶対ということはありませんからね、どんなことでも起こり得ますよ。
 現に、起こっているわけですし」

「それは、そうだが……でも、何故だ?」

「今の段階では、なんとも言えませんね。犯人グループが何を意図しているのかさえ、分からないわけですから」

 それからタシュアが、呼び鈴に手をかけた。
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