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第9話 至高の日常

不審 Episode:08

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「ルーフェイア、何かいい本は――?」

 言いかけて、シルファ先輩がこの男の先輩に気づく。

「何か、あったのか?」
「その、踏み台から落ちたんですけど、こちらの先輩に助けてもらって……」
「なんだって?!」

 今度はシルファ先輩があたしの前に立って、上から下まで一通り眺めた。

「あの、ほんとに平気なんです」

 なんだか恥ずかしくなって、慌てて言う。

「そうか? それならいいんだが」

 それからシルファ先輩が、この男性の先輩に向き直った。

「――この子を助けてもらって、済まなかった」
「いや、俺も別にそういうわけじゃ……。
 とりあえず用事もあるし、これで失礼するよ」

 どういうわけか、あたしたちが止める間もなく、その先輩は立ち去ってしまう。

「なんだったんでしょう……?」
「私に訊かれても……」

 シルファ先輩と二人で首をかしげたけれど、理由は分からずじまいだ。

 ――あとでイマドに、訊いてみようかな?

 こういうことは、彼はよく知っている。

「それより本当に、大丈夫だったのか?」

 まだ心配みたいで、シルファ先輩が尋ねてきた。

「あ、はい、大丈夫です。
 その……落ちたときに、さっきの先輩の上に、あたし落ちて……」

「そうだったのか。運が良かったな」

 ――そういう問題なんだろうか?

 何かが微妙に違う気がするけど……。

 でも床に落ちていたらアザくらい作っただろうから、やっぱり運が良かったのかもしれない。

「それにしても……どうして落ちたんだ?」
「あの本、取ろうと思って……」

 棚の上を指差す。
 引き出しかけたさっきの本は、落ちたりしないでまだその場所だ。

「――これか?」

 シルファ先輩は背が高いから、片足を踏み台の上に乗せただけで手が届いた。

「なんだか、難しそうな本だな……」
「ずっと発売延期になってた、本なんです」
「そうなのか」

 本を見ながら、なぜかシルファ先輩が感心する。

「先輩も、何か見つけたんですか?」

 その手にやっぱり本があるのを見て、あたしは訊いてみた。

「ああ、これか? 一応、新刊なんだが……」

 先輩が本を見せてくれた。
 タイトルは「光と闇の氾濫」、内容は何かファンタジー系の小説みたいだ。
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