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第9話 至高の日常

不審 Episode:07

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「よいしょ……」

 近くに置いてあった踏み台を引っ張ってきて、上に昇る。
 けどあたしの身長じゃ、一番上の棚にあるこの本には、それでもまだ上手く届かなかった。

 必死に手を伸ばす。

 ――届く、かな?

 どうにか指先が、背表紙の下側のへりにかかった。

 もう一段、背伸びをする。
 本が少し持ち上がって、引き出せそうだ。

 あと、もうちょっと……。
 少しずつ少しずつ引っ張り出して、本がどうにか半分くらい出てきた時。

「――!!」

 急に踏み台が傾いて、バランスを崩す。
 そのまま後ろへ落ちながら、とっさに受身の体勢を取って――。

「?」

 床じゃなくて、何かの上に落ちた。

「えっと……?」

 そして気が付く。

「す、すみませんっ!」

 誰か男の人を下敷きにしてしまっていた。

「あのっ、すみません、大丈夫ですか?!」

 しかもよく見ると、学院の先輩だった。確か上級傭兵じゃないけれど、シルファ先輩と同じ学年だったはずだ。

「あ、大丈夫。ほら、君、軽いし」
「………」

 なんか、ぐさりと来ることを言われた気がする。
 けどこの先輩が身体をさすっているのを見て、心配になった。

「あの、本当に……?」

「ああ。
 それより……その、ケガはないかい?」

「あ、はい、あたしは大丈夫です」

 受身を取っていたし、床に叩きつけられたわけじゃないから、打ち身すらない。
 でもその先輩は気になるのか、あたしのことを上から下までずっと見ている。

「あの、あたし、何か……?」

 なんとなく不安になって尋ねると、この先輩がかぶりを振った。

「いや、別に――」

 何か悪いことを言ったらしい。

「その、すみません……」

「いやいや。
 それよりその――ひとりかい?」

「え?」

 今度は突拍子もないことを訊かれる。

「えっと、その、他の先輩と一緒で……」
「その先輩、どこに?」

 答えに詰まった。
 この本屋さんの中にいるのは間違いないけど、「どこか」は分からない。

「その、ここのお店のどこかに、いるはずなんですけど……」
「ふぅん……」

 奇妙なものを感じて、どうしようか迷う。
 けど、先輩にあんまり失礼な事はできないし……。

 内心困っていると、ちょうどいい具合にシルファ先輩が戻って来てくれた。
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