上 下
448 / 743
第9話 至高の日常

遊戯 Episode:09

しおりを挟む
 ◇Tasha Side

 妙に強引なシルファに連れられていったキエーグ場は、思いのほか空いてた。
 休日なものの、春たけなわと言った暖かい日和のせいだろう。

 とはいえ、まったく人がいないわけではない。

「待つしかないな」
「まぁ、さほどは待たないでしょう」

 ざっと見回した感じからタシュアは、すぐ空くと判断していた。さっさと用意をし、ボールを取りに向かう。

「ルーフェイア、ちゃっちゃとボール取ってこいって」
「う、うん」

 いつのまにかボールを手にしているイマド――呆れるほどに要領がいい――にうながされて、ルーフェイアもボールを取りに来た。

(無事に選べますかね?)

 面白半分に見ていたが、さすがにこの程度は知っていたらしい。
 きちんと棚に沿って歩いて、どれにするか迷っている。

 と、この少女がタシュアの隣まで来て立ち止まった。

「♪」

 なにやら嬉しそうな顔をすると、ひょいと同じボールを手にする。

「――あいつ、どーゆー腕力してるんですかね?」
「私に言われても、困るんだが……」

 少し離れたところで、同じように見ていたシルファとイマドがそんな言葉を交わしているのを、タシュアの鋭い耳は捉えた。

 もっとも、そう言って当然だろう。

 なにしろタシュアは、普通なら持ち上げるのがやっとという両手剣を、「片手で」振り回せるほどの膂力の持ち主だ。
 それなのに折れそうなほど華奢なルーフェイアが、楽々と同じボールを持っているのだから、これはもう奇異としか言いようがない。

「ルーフェイア、あなたの腕にその重さは、余ると思いますがね」

 さすがに呆れて忠告する。
 だがこの少女は、事態をまったく理解していなかった。

「これ、重いんですか?」

 シルファやイマドはもちろん、タシュアも一瞬絶句する。

「おい、いちばん重いやつだぞ、それ」
「え、そうなの?」

 どうにか立ち直ったイマドが説明したが、まだそれでもルーフェイアは理解できないようだった。
 この状況にタシュアは、あることに思い当たる。

「――今も精霊を憑依させているのですか?」

 精霊を使って身体機能を引き上げれば、本来を遥かに上回る力を出せるようになる。

「はい」

 案の定、この子が素直にうなずいた。

「普段から精霊に頼るのは、考えものですよ」

 言われて少女は視線を落とす。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...