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第9話 至高の日常
遊戯 Episode:04
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「――遊びに行くぞ!」
妙に悔しくなって、宣言する。
これが二人だけなら買い物に引き回すところだが、後輩たちがいるからその手は使えない。
かといって、黙って帰るのも癪に障った。
ルーフェイアの手を引いて歩き出すと、従順なこの子が戸惑いながらも、ちゃんとついてくる。
「あの、先輩、でも、どこへですか……?」
訊かれて少々考え込む。
とっさにああ言ってしまったが、「どこ」と決めていたわけではない。
だがここで下手に黙っていると、またタシュアに突っ込まれるし……。
もう少しだけ考えて、私は答えを口にした。
「キエーグでもしよう」
「あ、俺賛成♪」
付き合いのいいイマドが早速乗ってきた。ルーフェイアは最初から拒否しない。
「タシュア、行くだろう?」
実はこれだけは、私のほうが上手いのだ。
「――ええ」
思惑通りの少しだけ面白くなさそうな表情で、それでもイエスと言った彼に、なんとなく可笑しくなる。
「シルファ先輩、で、どこへ行くんです?」
イマドがまた、気軽な調子で尋ねてきた。
このケンディクに何軒もある店の、どこへ行くのかというのだろう。
確かに店によってはいろいろ趣向を凝らしていたりもするが、私はあまり、そういうものには興味はなかった。
「そうだな……。
近いところで、いいんじゃないのか?」
「それもそですね」
ケンディクは観光都市のせいか、娯楽施設の数は案外多い。
それが目立たないのは、街並みを重視した建築規制のせいだ。
もちろんいちばんの売り物は透き通った海、それに豊かな自然なのだが、この街も雨に見舞われることはある。
そうなれば海や周囲の森はとても観光どころではなくなるし、そうでなくても泳ぐのに疲れて「今日は屋内で」という観光客もいないとは限らない。
また今のような季節は、どうやっても泳ぐには寒いだろう。
そんなわけで、この街は楽しむ場所には事欠かなかった。
「あそこ行くんだったら、割引券持ってくるんだったぜ」
「近いところ」ですぐにどの店か分かったのだろう。イマドがぼやいている。
妙に悔しくなって、宣言する。
これが二人だけなら買い物に引き回すところだが、後輩たちがいるからその手は使えない。
かといって、黙って帰るのも癪に障った。
ルーフェイアの手を引いて歩き出すと、従順なこの子が戸惑いながらも、ちゃんとついてくる。
「あの、先輩、でも、どこへですか……?」
訊かれて少々考え込む。
とっさにああ言ってしまったが、「どこ」と決めていたわけではない。
だがここで下手に黙っていると、またタシュアに突っ込まれるし……。
もう少しだけ考えて、私は答えを口にした。
「キエーグでもしよう」
「あ、俺賛成♪」
付き合いのいいイマドが早速乗ってきた。ルーフェイアは最初から拒否しない。
「タシュア、行くだろう?」
実はこれだけは、私のほうが上手いのだ。
「――ええ」
思惑通りの少しだけ面白くなさそうな表情で、それでもイエスと言った彼に、なんとなく可笑しくなる。
「シルファ先輩、で、どこへ行くんです?」
イマドがまた、気軽な調子で尋ねてきた。
このケンディクに何軒もある店の、どこへ行くのかというのだろう。
確かに店によってはいろいろ趣向を凝らしていたりもするが、私はあまり、そういうものには興味はなかった。
「そうだな……。
近いところで、いいんじゃないのか?」
「それもそですね」
ケンディクは観光都市のせいか、娯楽施設の数は案外多い。
それが目立たないのは、街並みを重視した建築規制のせいだ。
もちろんいちばんの売り物は透き通った海、それに豊かな自然なのだが、この街も雨に見舞われることはある。
そうなれば海や周囲の森はとても観光どころではなくなるし、そうでなくても泳ぐのに疲れて「今日は屋内で」という観光客もいないとは限らない。
また今のような季節は、どうやっても泳ぐには寒いだろう。
そんなわけで、この街は楽しむ場所には事欠かなかった。
「あそこ行くんだったら、割引券持ってくるんだったぜ」
「近いところ」ですぐにどの店か分かったのだろう。イマドがぼやいている。
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