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第9話 至高の日常

日常 Episode:06

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「えっと……」
「あそこが、空いているぞ」

 ちょうど船内の真中辺り、通路を挟んだ両側の席が空いていた。

「あ、はい」

 この子が素直にそこまで行って、向かって右の席を選ぶ。
 ケンディクへ行くときは左舷に本島を見ながらになるから、海原の見える右側を選んだのだろう。

 私たちも後から続いて、反対側の席へ座ろうとした。
 と、ルーフェイアがこちらに視線を走らせ、心細そうな表情を僅かに見せる。

「――何を甘ったれているのです」

 隙を見逃すようなタシュアではない。ルーフェイアの視線の意味を即座に悟り、すかさず突っ込んだ。

「ご、ごめんなさい!」

 またルーフェイアが謝る。

「一年生でも、行く子はひとりでケンディクまで行きますよ。ましてやあなたは何年生ですか」
「ごめんなさい……」

 キリがない。
 ただ私は、ルーフェイアの気持ちは分かった。

 ひとりは――寂しい。

「ルーフェイア、そっちへ座っていいか?」
「え、あの、でも……」

 泣きそうになりながら、それでもそう言うこの子が、なんだか可笑しかった。

「座るぞ」

 ルーフェイアを窓際へ押しやり、私も座る。

「あの……」
「いいんだ」

 言い切って頭を撫でると、この子がやっと少し落ち着いた。

「そうやって甘やかすから、いつまでたっても成長しないのですよ」
「ご、ごめんなさいっ!」

 私に言ったはずの言葉に、なぜかルーフェイアが謝る。

「謝る暇があるのでしたら、少しは考えたらどうなのです?」
「………」

 またこの子が泣きだした。

「ほ、ほら、動き出した」

 急いで気を逸らす。

「泣いていたら、海が見えないぞ」
「あ、はい」

 ルーフェイアが慌てて涙を拭いた。
 ほっとする。

「……♪」

 入り江から広い海へ出ると、この子が嬉しそうな表情になった。

 ――本当に好きなんだな。

 ルーフェイアは海が好きだった。
 特にケンディクの港で眺めるのが好きで、時々友だちやイマドと一緒に座り込んでいるのを、見かけることがある。

 と、タシュアが不意に口を開いた。

「ルーフェイア、そんなに海がいいのでしたら、泳いできてはどうです?」
「え、でも……」

 タシュアの冗談――もっとも声音はいつものまま――を真に受けて、この子が困り果てる。
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