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第9話 至高の日常

日常 Episode:04

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「すみません……」
「それはいいから」

 華奢な手にフォークを握らせる。
 ここまでやると、ようやくこの子はケーキを口に運んだ。

 隣のタシュアも食べ始めて、内心ほっとする。

「おや、何か材料を変えましたか?
 味と香りが、いつもと微妙に違いますが」

「――よく分かったな」

 もっとも彼は五感が鋭い。このくらいなら分かって当然だろう。

「ブランデーを切らしていたから、リキュールを入れたんだ」
「なるほど。
 ですが私は、いつもの方が好きですね」

 そうは言いながらしっかり食べているのだから、さすがだ。

「あの、リキュールってなんですか?」
「――後で教えるから、先に食べてくれないか?」
「あ、はい」

 無邪気に訊いてきたルーフェイアを、どうにか食べる事に専念させる。
 恐らくリキュールが何かなど全く知らないだろうから、ここでそんな話になればまた墓穴を掘って泣かされるだけだ。

 ――それにしても。

 この二人が並んで食べていると、不思議な雰囲気があった。

 男子と女子、銀髪と金髪、紅眼と碧眼……その容貌は見事に正反対だ。
 しかも容貌だけではなく、性格も正反対。

 どちらも同じように戦場で育っているだけに、なおさらこの対比は不思議だった。
 ただこうしている様は、どことなく兄妹といった感じにも見える。

「あの、なにか……?」

 私が見ている事に気付いて、タシュアではなくルーフェイアが顔を上げた。

「いや、なんでもない。
 ――二人とも、もう少し食べるか?」

 すでに食べ終えてしまったタシュアと、半分ちょっと食べたルーフェイアとに尋ねる。

「いえ、私はけっこうです」
「あたしも、もう……」

 とりあえずは二人とも、満足したようだった。

「そうか。そうしたら私はこれを片付けるから、その間にお茶も飲んでおいてくれ」

 たいした量ではないが、一応洗い物がある。

「シルファ、それではあなたが食べられないでしょう」

 そう言うと、最後に残っていたコーヒーを口にして、すっとタシュアが立ち上がった。

「洗っておきますから、食べてはどうです?」
「すまない」

 流しの前にタシュアが立ち、入れ替わりに空いた席へ座る。

 ――これならもう、この子は泣かされないな。

 そんなことを思いながら、フォークを手にした瞬間。

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