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第9話 至高の日常

日常 Episode:02

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「とりあえず、一休みしたらどうだ?」

 タイミングを見計らって間に入り、二人の目の前に出来上がったケーキのお皿を置いた。

「ほら、泣いていると食べられないぞ?」
「あ、はい……」

 ようやくルーフェイアが泣き止んで、涙をぬぐう。
 それからこの子が、まじまじと目の前のお皿を見つめた。

「黒……?」
「黒?」

 予想もしない言葉がルーフェイアの口から出て、面食らう。

「いえ、白じゃなくて黒って……」
「??」

 なんのことだかさっぱり分からない。

「シルファ、おそらくこのケーキのことです」

 考えこんでいる私へ、タシュアが説明した。

「このケーキって……これはチョコレートだぞ?」

 間違ってもイカ墨を入れたりはしない。

 だいいち、見れば普通は……。
「……チョコレートって、ケーキに使うんですか?」

 ――この子は例外だったらしい。

「ルーフェイア、チョコレートが何かは知っていますか?」
「携帯食のキットによく入ってる、黒くて甘くて四角いのですよね?」

 問いにルーフェイアは、無邪気に答えた。しかも「美味しいから好きだ」と言う。
 やれやれとタシュアがため息をついて、この子がきょとんとした顔になった。

「あの、違うんですか……?」
「間違ってはいないんだが……」

 どう説明したものか。

 悪気は無いのだが、どうもルーフェイアは一般常識に疎い子だった。
 知識が必須だった戦闘関係と医療・語学に、あとはなぜか歴史に偏っていて、その他の事となると不安なほどに知らないのだ。

「ともかくチョコレートは、もともとはお菓子だったんだ。
 ただそれが非常食に向いていたものだから、キットに入れるようになっただけで……」

「あ、だからおいしいんですね」

 とりあえず納得したらしく、この子がうなずく。

「その調子で、よく今まで平気でしたね」

 ――いけない。

 せっかく泣き止んだルーフェイアが、また泣き出しそうになった。

「と、ともかく食べたらどうだ? お茶でも淹れるから」

 慌ててまた間に入る。

「コーヒーにしていただけますか?」

「分かった。
 ――ルーフェイアは何がいい?」

「あ、あたしはなんでも……」

 およそ自己主張とは縁のないこの子は、予想通りの返事だ。
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