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第8話 言葉ではなく
交渉 Episode:07
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小さい頃から両親に連れられて世界各地を転々としていたおかげで、あたしが話せる言葉は多い。
おもだったものは全部読み書きできるし、この辺じゃ知られていないヴァサーナ語も、日常会話程度ならどうにかこなせる。
ほかにもシュマー内の公用語が古代ローム語の変形だから、ローム語と古代ローム語の両方も出来た。
でもシーモアや父さんたちが使っているスラングは、単語の使い方さえ違っていて、ロデスティオ語が出来ても理解できない。
よく知っているはずのみんなが、今だけ遠く見えた。
――戦争って、こういうところから始まるのかな。
ふと、思う。
今のあたしみたいに、どこかの誰かが何故か遠く見えて……相手の言っていることも考えていることも分からなくて、まるで魔物みたいに見えてしまうのかもしれない。
そうやっていろいろと思いをめぐらしているうちに、ガルシィさんが立ち上がった。
「どうやら、話がまとまったみてぇだな」
「うん」
あたしたちも立ち上がる。
ガルシィさんがこっちへと視線を向けた。
「レニーサ――二人――」
「え?」
困ってイマドのほうを見る。
「今、なんて……?」
「一緒に来いってさ」
彼があっさりと通訳してくれた。今度は内容が単純だったから、読み取れたんだろう。
それからガルシィさんがはっとした顔になる。
「――客がいるのに、つい仲間内の言葉になってたみたいだな」
「いえ、あの、大丈夫ですから……」
慌ててそう答える。
だいいち、特に困ったわけでもない。
「それで、どこへ行かれるんですか?」
行き先が知りたくて、あたしはガルシィさんに尋ねた。
イマドが隣で呆れた顔をする。
「『レニーサの店』だってよ」
「そうなの?」
確かに会話の中には、何度もその名前が出てたけど……。
「あぁそっか、すまねぇ。まるっきりお前、分かんなかったんだもんな」
「いや、我々のミスだな」
ガルシィさんがそう言ってくれて、さらに補足してくれた。
「ディアスさんからの話じゃ、今回の話にウラがあるのは確実らしい。それもどうやら、俺たちの単なる抗争を超えたヤツだ。
だからその店へ行って、真相を聞かせてもらう」
「――はい!」
自分の声が、思わずはずむのが分かった。
ガルシィさんは一言も「ダグさんと会う」とは言ってないけれど、同じ場所へ足を向ければ、会わないわけにいかない。
そして会えば、なにか少しは変わるはずだ。
おもだったものは全部読み書きできるし、この辺じゃ知られていないヴァサーナ語も、日常会話程度ならどうにかこなせる。
ほかにもシュマー内の公用語が古代ローム語の変形だから、ローム語と古代ローム語の両方も出来た。
でもシーモアや父さんたちが使っているスラングは、単語の使い方さえ違っていて、ロデスティオ語が出来ても理解できない。
よく知っているはずのみんなが、今だけ遠く見えた。
――戦争って、こういうところから始まるのかな。
ふと、思う。
今のあたしみたいに、どこかの誰かが何故か遠く見えて……相手の言っていることも考えていることも分からなくて、まるで魔物みたいに見えてしまうのかもしれない。
そうやっていろいろと思いをめぐらしているうちに、ガルシィさんが立ち上がった。
「どうやら、話がまとまったみてぇだな」
「うん」
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ガルシィさんがこっちへと視線を向けた。
「レニーサ――二人――」
「え?」
困ってイマドのほうを見る。
「今、なんて……?」
「一緒に来いってさ」
彼があっさりと通訳してくれた。今度は内容が単純だったから、読み取れたんだろう。
それからガルシィさんがはっとした顔になる。
「――客がいるのに、つい仲間内の言葉になってたみたいだな」
「いえ、あの、大丈夫ですから……」
慌ててそう答える。
だいいち、特に困ったわけでもない。
「それで、どこへ行かれるんですか?」
行き先が知りたくて、あたしはガルシィさんに尋ねた。
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「『レニーサの店』だってよ」
「そうなの?」
確かに会話の中には、何度もその名前が出てたけど……。
「あぁそっか、すまねぇ。まるっきりお前、分かんなかったんだもんな」
「いや、我々のミスだな」
ガルシィさんがそう言ってくれて、さらに補足してくれた。
「ディアスさんからの話じゃ、今回の話にウラがあるのは確実らしい。それもどうやら、俺たちの単なる抗争を超えたヤツだ。
だからその店へ行って、真相を聞かせてもらう」
「――はい!」
自分の声が、思わずはずむのが分かった。
ガルシィさんは一言も「ダグさんと会う」とは言ってないけれど、同じ場所へ足を向ければ、会わないわけにいかない。
そして会えば、なにか少しは変わるはずだ。
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