上 下
309 / 743
第8話 言葉ではなく

団欒 Episode:11

しおりを挟む
「どんくらい前の話だ?」
「ほんとにダグさんが、帰ってくる直前で……」

 アパートの階段を降りながら答えた。

「真っ直ぐ帰ってればともかく、寄り道でもしてたらやばいぞ」
「ともかく、探さないと!」
「っても、どこを探せばいいんだ?」

 ゼロールさんが考え込む。

「ダグさん、分かりませんか?」
「ムチャ言うな。よそのガキがどこ歩くかなんざ、天気予報より難しいぜ」
「そうですけど……」

 けど早くしないと、何が起こるか分からない。
 その時、それまで無言だったイマドが悔しそうに言った。

「ちきしょう、居場所はわかったけど場所がわかんねぇ!」
「――イマド?」

 どこかあたしたちとは違う彼は、ウィンのいる場所がわかっているようだった。

「分かったの?」
「それがわかんねぇんだって! なにせこの辺知らねぇから、どっちの方角かも見当つかねぇんだよ!」

 ――え?

 この言い方……。

 急いで記憶を探って思い出す。
 そう、確か母さんが時々、こういう言い方をしてて……。

「ねぇ、何か目印になりそうなもの、ない?」

 よくこうして地図とつき合わせて、位置を割り出していたはずだ。

「目印? そう言われても……待てよ、ジャンク屋があるな。トタン張り合わせた掘っ立て小屋で、裏手にジャンク品が山積みになってて……」

「そりゃドアルんとこだ。そのガキ、やっぱ寄り道しやがったな。
 ――ついて来い、こっちに抜け道がある」

 急に右に折れたダグさんに続いて、慌ててみんなで進路変更する。

「あそこから連中のアジトまでは、使う道はひとつだ。これ以上は道草もしねぇだろうし、間違いなくどっかで捕まえられるぞ」

 場所さえ分かってしまえばあとはダグさんの独壇場で、細い抜け道を迷うことなく選んで行く。

「あっ、ごめんね!」

 転がされているごみバケツを飛び越えようとして、餌を探していた野良犬を蹴飛ばしかけた。

「お前、イヌに謝るなよ」
「でも、邪魔しちゃったもの……」

 それ以外にもいろいろ障害物があったり塀の隙間を抜けたり、挙句に右左と折れていくから、学院のランニングよりよっぽどハードだ。

「ここ曲がりゃ、あとはいっぽんだ」

 先頭のダグさんがそう言って、スピードを上げる。
 けどそれを上回ってスピードを上げたのがイマドだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アネンサードの人々

buchi
ファンタジー
アネンサードとは、すでに滅びたと信じられている異能の人種の呼び名。教会は何百年もかけて彼らを追い詰め、彼らが生きた痕跡を抹殺した。そんなものはおとぎ話に過ぎないと。 中世の面影を色濃く残すその時代、国一番の公爵家の御曹司フリースラントは、自分の異能に疑問を持ち、伝説の人々の最期の足跡が残る街、レイビックを目指す旅に出る。 一国の滅びと復興、ヒロイズムと殺戮が混ざるダークファンタジー。主人公が巻き込まれていく運命の答えは最後まで読まないとわからない、起承転結のある物語です。約65万字。185話。男女向けは不明。 第二部では、フリースラントはレイビックで金山を見つけ大富豪になり、レイビック伯爵を名乗ります。

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

カティア
ファンタジー
 疲れ切った現実から逃れるため、VRMMORPG「アナザーワールド・オンライン」に没頭する俺。自由度の高いこのゲームで憧れの料理人を選んだものの、気づけばゲーム内でも完全に負け組。戦闘職ではないこの料理人は、ゲームの中で目立つこともなく、ただ地味に日々を過ごしていた。  そんなある日、フレンドの誘いで参加したレベル上げ中に、運悪く出現したネームドモンスター「猛き猪」に遭遇。通常、戦うには3パーティ18人が必要な強敵で、俺たちのパーティはわずか6人。絶望的な状況で、肝心のアタッカーたちは早々に強制ログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク役クマサンとヒーラーのミコトさん、そして料理人の俺だけ。  逃げるよう促されるも、フレンドを見捨てられず、死を覚悟で猛き猪に包丁を振るうことに。すると、驚くべきことに料理スキルが猛き猪に通用し、しかも与えるダメージは並のアタッカーを遥かに超えていた。これを機に、負け組だった俺の新たな冒険が始まる。  猛き猪との戦いを経て、俺はクマサンとミコトさんと共にギルドを結成。さらに、ある出来事をきっかけにクマサンの正体を知り、その秘密に触れる。そして、クマサンとミコトさんと共にVチューバー活動を始めることになり、ゲーム内外で奇跡の連続が繰り広げられる。  リアルでは無職、ゲームでは負け組職業だった俺が、リアルでもゲームでも自らの力で奇跡を起こす――そんな物語がここに始まる。

【毎日更新】元魔王様の2度目の人生

ゆーとちん
ファンタジー
 人族によって滅亡を辿る運命だった魔族を神々からの指名として救った魔王ジークルード・フィーデン。 しかし神々に与えられた恩恵が強力過ぎて神に近しい存在にまでなってしまった。  膨大に膨れ上がる魔力は自分が救った魔族まで傷付けてしまう恐れがあった。 なので魔王は魔力が漏れない様に自身が張った結界の中で一人過ごす事になったのだが、暇潰しに色々やっても尽きる気配の無い寿命を前にすると焼け石に水であった。  暇に耐えられなくなった魔王はその魔王生を終わらせるべく自分を殺そうと召喚魔法によって神を下界に召喚する。 神に自分を殺してくれと魔王は頼んだが条件を出された。  それは神域に至った魔王に神になるか人族として転生するかを選べと言うものだった。 神域に至る程の魂を完全に浄化するのは難しいので、そのまま神になるか人族として大きく力を減らした状態で転生するかしか選択肢が無いらしい。  魔王はもう退屈はうんざりだと言う事で神になって下界の管理をするだけになるのは嫌なので人族を選択した。 そして転生した魔王が今度は人族として2度目の人生を送っていく。  魔王時代に知り合った者達や転生してから出会った者達と共に、元魔王様がセカンドライフを送っていくストーリーです! 元魔王が人族として自由気ままに過ごしていく感じで書いていければと思ってます!  カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております!

みそっかすちびっ子転生王女は死にたくない!

沢野 りお
ファンタジー
【書籍化します!】2022年12月下旬にレジーナブックス様から刊行されることになりました! 定番の転生しました、前世アラサー女子です。 前世の記憶が戻ったのは、7歳のとき。 ・・・なんか、病的に痩せていて体力ナシでみすぼらしいんだけど・・・、え?王女なの?これで? どうやら亡くなった母の身分が低かったため、血の繋がった家族からは存在を無視された、みそっかすの王女が私。 しかも、使用人から虐げられていじめられている?お世話も満足にされずに、衰弱死寸前? ええーっ! まだ7歳の体では自立するのも無理だし、ぐぬぬぬ。 しっかーし、奴隷の亜人と手を組んで、こんなクソ王宮や国なんか出て行ってやる! 家出ならぬ、王宮出を企てる間に、なにやら王位継承を巡ってキナ臭い感じが・・・。 えっ?私には関係ないんだから巻き込まないでよ!ちょっと、王族暗殺?継承争い勃発?亜人奴隷解放運動? そんなの知らなーい! みそっかすちびっ子転生王女の私が、城出・出国して、安全な地でチート能力を駆使して、ワハハハハな生活を手に入れる、そんな立身出世のお話でぇーす! え?違う? とりあえず、家族になった亜人たちと、あっちのトラブル、こっちの騒動に巻き込まれながら、旅をしていきます。 R15は保険です。 更新は不定期です。 「みそっかすちびっ子王女の転生冒険ものがたり」を改訂、再up。 2021/8/21 改めて投稿し直しました。

私に成り代わって嫁ごうとした妹ですが、即行で婚約者にバレました

あーもんど
恋愛
ずっと腹違いの妹の方を優遇されて、生きてきた公爵令嬢セシリア。 正直不満はあるものの、もうすぐ結婚して家を出るということもあり、耐えていた。 でも、ある日…… 「お前の人生を妹に譲ってくれないか?」 と、両親に言われて? 当然セシリアは反発するが、無理やり体を押さえつけられ────妹と中身を入れ替えられてしまった! この仕打ちには、さすがのセシリアも激怒! でも、自分の話を信じてくれる者は居らず……何も出来ない。 そして、とうとう……自分に成り代わった妹が結婚準備のため、婚約者の家へ行ってしまった。 ────嗚呼、もう終わりだ……。 セシリアは全てに絶望し、希望を失うものの……数日後、婚約者のヴィンセントがこっそり屋敷を訪ねてきて? 「あぁ、やっぱり────君がセシリアなんだね。会いたかったよ」 一瞬で正体を見抜いたヴィンセントに、セシリアは動揺。 でも、凄く嬉しかった。 その後、セシリアは全ての事情を説明し、状況打破の協力を要請。 もちろん、ヴィンセントは快諾。 「僕の全ては君のためにあるんだから、遠慮せず使ってよ」 セシリアのことを誰よりも愛しているヴィンセントは、彼女のため舞台を整える。 ────セシリアをこんな目に遭わせた者達は地獄へ落とす、と胸に決めて。 これは姉妹の入れ替わりから始まる、報復と破滅の物語。 ■小説家になろう様にて、先行公開中■ ■2024/01/30 タイトル変更しました■ →旧タイトル:偽物に騙されないでください。本物は私です

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...