279 / 743
第8話 言葉ではなく
古巣 Episode:06
しおりを挟む
「ショッピングモールって……いちばんの繁華街よね? そうするとウィンのいたスラムって、ファーストの方なの?」
「だよ」
どうやらあたし、勘違いをしてたらしい。
ベルデナードという町は、ほぼ円形を形作っている。
そしてその円を南北に中央通りが貫いて町を二つに分断し、西側は高級住宅地と役所などの機関、東側は巨大なショッピングモールとアパート群が立ち並ぶ構造になっていた。
ただこの巨大な繁華街は、20年程前に旧繁華街が移設されて出来たもので、町全体に比べると歴史は浅い。
そして再開発されるはずだった旧市街のほうは、その後大戦で計画が中止され、そのままスラムになってしまった。
これが俗に「ファースト」と呼ばれるシティ内のスラムで、治安が悪いことで有名だ。
ただ規模のほうでは、シティ外にあるもののほうがずっと大きく、ただ単にベルデナードのスラムというとこちらを差す。
「スラムって言うからあたし、ついシティ外の方だと……」
ちなみにこのシティ外のスラムは町の南東、線路の両脇にずっと広がっている。
ロデスティオ国内の困窮者や、征服された近隣諸国からの難民。そういった人が線路際に住みついて出来たものだ。
「ごめんよ、ねぇちゃん。でもさ、そうほいほい言うのもヤバいかなって」
「あ、そうだね……」
確かにこの名前を聞いたら、大抵の人は眉をひそめるだろう。
「ったく、まさかそっちの出だとはな。どうりであいつらも肝が据わってるわけだぜ」
イマドの言う「あいつら」は、どう考えたってシーモアとナティエスだ。
けど確かにあの二人、ちょっと考えられないほど非常時に落ちついている。
たまたま戦場で育って慣れてしまったあたしはともかく、普通じゃあんな風にはなれないはずだ。
逆に言えばそれだけ……凄いところなんだろう。
「ほらねぇちゃん、急いで乗らないと」
「あ、ごめんね」
ウィンにうながされて、慌てて来たバスに乗った。
朝のラッシュはもう終わっているらしく、意外に空いている。
――それにしても。
大きな街だった。
学院のあるケンディクはもちろん、イグニールさえも遥かに上回るだろう。
大きな公園もいくつもあるし、場所によってはきちんと街路樹が植えられて、この冬の最中に綺麗な緑色を保っていた。
歩道も全域で完備、しかもなめらかな石畳だ。とうぜん車道はどこも舗装されている。
「だよ」
どうやらあたし、勘違いをしてたらしい。
ベルデナードという町は、ほぼ円形を形作っている。
そしてその円を南北に中央通りが貫いて町を二つに分断し、西側は高級住宅地と役所などの機関、東側は巨大なショッピングモールとアパート群が立ち並ぶ構造になっていた。
ただこの巨大な繁華街は、20年程前に旧繁華街が移設されて出来たもので、町全体に比べると歴史は浅い。
そして再開発されるはずだった旧市街のほうは、その後大戦で計画が中止され、そのままスラムになってしまった。
これが俗に「ファースト」と呼ばれるシティ内のスラムで、治安が悪いことで有名だ。
ただ規模のほうでは、シティ外にあるもののほうがずっと大きく、ただ単にベルデナードのスラムというとこちらを差す。
「スラムって言うからあたし、ついシティ外の方だと……」
ちなみにこのシティ外のスラムは町の南東、線路の両脇にずっと広がっている。
ロデスティオ国内の困窮者や、征服された近隣諸国からの難民。そういった人が線路際に住みついて出来たものだ。
「ごめんよ、ねぇちゃん。でもさ、そうほいほい言うのもヤバいかなって」
「あ、そうだね……」
確かにこの名前を聞いたら、大抵の人は眉をひそめるだろう。
「ったく、まさかそっちの出だとはな。どうりであいつらも肝が据わってるわけだぜ」
イマドの言う「あいつら」は、どう考えたってシーモアとナティエスだ。
けど確かにあの二人、ちょっと考えられないほど非常時に落ちついている。
たまたま戦場で育って慣れてしまったあたしはともかく、普通じゃあんな風にはなれないはずだ。
逆に言えばそれだけ……凄いところなんだろう。
「ほらねぇちゃん、急いで乗らないと」
「あ、ごめんね」
ウィンにうながされて、慌てて来たバスに乗った。
朝のラッシュはもう終わっているらしく、意外に空いている。
――それにしても。
大きな街だった。
学院のあるケンディクはもちろん、イグニールさえも遥かに上回るだろう。
大きな公園もいくつもあるし、場所によってはきちんと街路樹が植えられて、この冬の最中に綺麗な緑色を保っていた。
歩道も全域で完備、しかもなめらかな石畳だ。とうぜん車道はどこも舗装されている。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
【完結】あなたの思い違いではありませんの?
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
複数の物語の登場人物が、一つの世界に混在しているなんて?!
「カレンデュラ・デルフィニューム! 貴様との婚約を破棄する」
お決まりの婚約破棄を叫ぶ王太子ローランドは、その晩、ただの王子に降格された。聖女ビオラの腰を抱き寄せるが、彼女は隙を見て逃げ出す。
婚約者ではないカレンデュラに一刀両断され、ローランド王子はうろたえた。近くにいたご令嬢に「お前か」と叫ぶも人違い、目立つ赤いドレスのご令嬢に絡むも、またもや否定される。呆れ返る周囲の貴族の冷たい視線の中で、当事者四人はお互いを認識した。
転生組と転移組、四人はそれぞれに前世の知識を持っている。全員が違う物語の世界だと思い込んだリクニス国の命運はいかに?!
ハッピーエンド確定、すれ違いと勘違い、複数の物語が交錯する。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/19……完結
2024/08/13……エブリスタ ファンタジー 1位
2024/08/13……アルファポリス 女性向けHOT 36位
2024/08/12……連載開始
高校を退学させられた後、異世界へ留学することになりました。
青空鰹
ファンタジー
突然校長室に呼び出された主人公 海山 洸夜 は、何とそこでいきなり退学を言い渡されて追い出されてしまった。
途方にくれて歩いている途中にスーツ姿の女性にぶつかったが、その人から ”異世界に留学してみませんか?” と話掛けられた。
退学から始まる異世界留学物語である。
半身転生
片山瑛二朗
ファンタジー
忘れたい過去、ありますか。やり直したい過去、ありますか。
元高校球児の大学一年生、千葉新(ちばあらた)は通り魔に刺され意識を失った。
気が付くと何もない真っ白な空間にいた新は隣にもう1人、自分自身がいることに理解が追い付かないまま神を自称する女に問われる。
「どちらが元の世界に残り、どちらが異世界に転生しますか」
実質的に帰還不可能となった剣と魔術の異世界で、青年は何を思い、何を成すのか。
消し去りたい過去と向き合い、その上で彼はもう一度立ち上がることが出来るのか。
異世界人アラタ・チバは生きる、ただがむしゃらに、精一杯。
少なくとも始めのうちは主人公は強くないです。
強くなれる素養はありますが強くなるかどうかは別問題、無双が見たい人は主人公が強くなることを信じてその過程をお楽しみください、保証はしかねますが。
異世界は日本と比較して厳しい環境です。
日常的に人が死ぬことはありませんがそれに近いことはままありますし日本に比べればどうしても命の危険は大きいです。
主人公死亡で主人公交代! なんてこともあり得るかもしれません。
つまり主人公だから最強! 主人公だから死なない! そう言ったことは保証できません。
最初の主人公は普通の青年です。
大した学もなければ異世界で役立つ知識があるわけではありません。
神を自称する女に異世界に飛ばされますがすべてを無に帰すチートをもらえるわけではないです。
もしかしたらチートを手にすることなく物語を終える、そんな結末もあるかもです。
ここまで何も確定的なことを言っていませんが最後に、この物語は必ず「完結」します。
長くなるかもしれませんし大して話数は多くならないかもしれません。
ただ必ず完結しますので安心してお読みください。
ブックマーク、評価、感想などいつでもお待ちしています。
この小説は同じ題名、作者名で「小説家になろう」、「カクヨム」様にも掲載しています。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます
しろ卯
ファンタジー
VRMMO『無題』をプレイしていた雪乃の前に表示された謎の選択肢、『この世界から出る』か『魔王になる』。
魔王を拒否して『この世界から出る』を選択した雪乃は、魔物である樹人の姿で異世界へと放り出されてしまう。
人間に見つかれば討伐されてしまう状況でありながら、薬草コンプリートを目指して旅に出る雪乃。
自由気ままなマンドラゴラ達や規格外なおっさん魔法使いに助けられ、振り回されながら、小さな樹人は魔王化を回避して薬草を集めることができるのか?!
天然樹人少女と暴走魔法使いが巻き起こす、ほのぼの珍道中の物語。
※なろうさんにも掲載しています。
ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました
カティア
ファンタジー
疲れ切った現実から逃れるため、VRMMORPG「アナザーワールド・オンライン」に没頭する俺。自由度の高いこのゲームで憧れの料理人を選んだものの、気づけばゲーム内でも完全に負け組。戦闘職ではないこの料理人は、ゲームの中で目立つこともなく、ただ地味に日々を過ごしていた。
そんなある日、フレンドの誘いで参加したレベル上げ中に、運悪く出現したネームドモンスター「猛き猪」に遭遇。通常、戦うには3パーティ18人が必要な強敵で、俺たちのパーティはわずか6人。絶望的な状況で、肝心のアタッカーたちは早々に強制ログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク役クマサンとヒーラーのミコトさん、そして料理人の俺だけ。
逃げるよう促されるも、フレンドを見捨てられず、死を覚悟で猛き猪に包丁を振るうことに。すると、驚くべきことに料理スキルが猛き猪に通用し、しかも与えるダメージは並のアタッカーを遥かに超えていた。これを機に、負け組だった俺の新たな冒険が始まる。
猛き猪との戦いを経て、俺はクマサンとミコトさんと共にギルドを結成。さらに、ある出来事をきっかけにクマサンの正体を知り、その秘密に触れる。そして、クマサンとミコトさんと共にVチューバー活動を始めることになり、ゲーム内外で奇跡の連続が繰り広げられる。
リアルでは無職、ゲームでは負け組職業だった俺が、リアルでもゲームでも自らの力で奇跡を起こす――そんな物語がここに始まる。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。
アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。
【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】
地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。
同じ状況の少女と共に。
そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!?
怯える少女と睨みつける私。
オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。
だったら『勝手にする』から放っておいて!
同時公開
☆カクヨム さん
✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉
タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。
そして番外編もはじめました。
相変わらず不定期です。
皆さんのおかげです。
本当にありがとうございます🙇💕
これからもよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる