上 下
271 / 743
第8話 言葉ではなく

知らせ Episode:19

しおりを挟む
「ううん、いいの。だってあたしたち……ほんとは関係ないから……」

 部外者が乗り込むってことの意味を、意外にもルーフェイアのヤツ、分かってるらしい。
 それを指摘されたのと、でも行きたいのとで、板ばさみで泣いたっぽかった。

 つかコイツ、言い返す代わりに泣く。

「けど、けど……シーモアもナティエスも、友達だから……」

「姉ちゃん、オイラが悪かった。ごめん、謝る」

 あっさり、ガキが謝った。
 もちっと生意気だと思ってたから、これには俺も驚く。

 ルーフェイアのヤツも驚いたらしくて、泣くのを忘れてガキを見る。

「その……ンな理由でさ、それもスラムの外で育ったヤツが来てくれるなんて、オイラ考えたこともなかったんだ。
 ――姉ちゃんたち、すっげぇいい人なんだね」

「そんなことないわ」

 間髪いれずにルーフェイアのヤツが否定したけど、説得力はゼロだ。
 俺はともかく、コイツの人の好さは並外れてる。

「ま、そゆやつもいるってことさ」

 俺の言葉に、何度もガキが頷いた。
 それから、いちばん肝心な事を思い出す。

「そういやお前、名前なんてんだ?」
「え? あ、そか、言ってなかったっけ。オイラ、ウィンってんだ」

 胸を張って答えたガキに、ルーフェイアのヤツが返す。

「いい、名前だね」
「え、それほどでも……」

 耳まで赤くなってるあたり、ルーフェイアの美少女ぶりにアテられたんだろう。けっこうマセたガキだ。

「とりあえずお前、シャワーでも浴びてこいよ。その頭だと、ずっと身体洗ってねーだろ」
「え……」

 ガキがあとずさった。

「オイラ、そういうのはさ、えーと別に、死なないからいいじゃん」
「入ってこい。じゃないと、甲板から海に捨てっぞ」

 頭に虫でもつけてそうなヤツと、同室はさすがに願い下げだ。

「ウィンくん……入ったほうが、いいよ。
 んと、そしたらあたしが、洗って……あげようか?」

「いいっ! オイラひとりで入るっ!」

 ルーフェイアの「親切」に、ガキが身を翻してシャワー室へ駆け込んだ。
 さすがに素っ裸を女子に見せるのは、ヤなんだろう。

「他人が洗ったほうが、きれいになるのに……」

 さすがにここまでくると、ガキが可哀想になる。

「やらせとけよ。つかさ、学院のガキならあの年なら、だいたいの事はひとりでやるぜ?」
「あ、そっか」

 やっと納得したらしい。
 俺はソファに腰掛けた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...