上 下
210 / 743
第7話 力の行方

策略 Episode:01

しおりを挟む
 ◇Rufeir

 こんな会場にでるなんて、久しぶりだった。

 立食式の会場は、たくさんの着飾った人々で賑わっている。

 ――この黒いつぶつぶののった固いパン、おいしい♪

 ただ今日は幸いにも、あたしを知ってる人はほとんどどいない。
 いわばアヴァン国内の内輪だし、あたしはごくたまに財界関係に顔を出す程度だから、面識がない人ばかりだ。

 殿下には今は、エレニア先輩とミル(!)がついてくれてる。
 いずれにせよ会場の内外はかなり厳しく警護されてるから、あとは誰かが殿下に張り付いていれば、ほぼ大丈夫だろう。

 もっとも油断はできないから、残りのメンバーも遠巻きにするようにして気を配ってはいた。

 ――あ♪

 シルファ先輩の後ろ姿をみつける。ナティエスたちが選んだ薄紫のドレスが、とてもよく似合っていた。

 タシュア先輩が見たら、なんて言うだろうか?
 あたしだけ綺麗な先輩を見て、申し訳ないような気がする。

「――シルファ先輩」
「あ、ルーフェイアか」

 声をかけると、先輩が振り向いた。

 ――あれ?

 よく見ると先輩、最初にナティエスたちが選んでいたのとは違うアクセサリーを付けている。

 銀の鎖にさがる――これはクリスタルだろうか?
 綺麗な結晶の形をしていて、滅多にお目にかかれないほどの透明度だっ た。

「先輩、そのペンダント……?」
「え? ああ……そういえば、折角ルーフェイアが用意してくれたのを、付けなかったな。すまない」
「あれはどうせ、ありあわせですし……。これ……クリスタル、ですよね?」

 近づいてみても、傷ひとつ見当たらない。結晶の内部も完全な透明だ。

「こんなに透明度の高いクリスタル、珍しいですけど……どうなさったんですか?」

 掃いて捨てるほど――ほんと、困るだけ――あるうちのアクセサリーの中にも、これだけ透き通ったクリスタルはあまりないだろう。

「これか? タシュアが、くれたんだ」
「えぇっ!」

 思わず声をあげる。

「そんなに、意外か?」
「え、あ、別にその、あっちゃいけないとかは……けど、でも……」

 どう取り繕ったらいいのか分からない。
 けどシルファ先輩、そんなあたしを見て笑っただけだった。

「信じられないだろうな」
「はい……」

 あの毒舌によらず、意外にもタシュア先輩が優しいのは、あたしも知ってる。
 けどまさか、プレゼントをするとは思わなかった。

「誕生日に……もらったんだ」

 そう言ってシルファ先輩が、水晶を握り締める。

 ――不思議な表情。

 うっとりとしているのに、どこかに遠い昔の寂しさが混ざっている。
 でも、この学院でこの表情をする人は多い。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

愛はないですが、地の果てからも駆けつけることになりました ~崖っぷち人質姫の日常~

菱沼あゆ
ファンタジー
遠縁に当たるバージニア姫とともに大国に花嫁として送られたアイリーン。 現王家の姫ではないので、扱いが悪く。 およそ、王様が尋ねてきそうにない崖の上の城に住むように言われるが。 狩りの帰りの王様がたまたま訪れ。 なにもなかったのに、王様のお手がついたのと同じ扱いを受けることに。 「今後、アイリーン様に課せられるお仕事はひとつだけ。  いつ王様がいらしても、ちゃんと城でお出迎えされることです。  あとは、今まで通りご自由に」 簡単でしょう? という感じに言われるが。 いえいえ。 諸事情により、それ、私にはかんたんじゃないんですよっ! 寝ると死んでしまうアイリーンと近隣の国々を侵略しつづける王様の物語。 (「小説家になろう」でも掲載しています。)

異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い

八神 凪
ファンタジー
   旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い  【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】  高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。    満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。  彼女も居ないごく普通の男である。  そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。  繁華街へ繰り出す陸。  まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。  陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。  まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。  魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。  次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。  「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。  困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。    元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。  なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。  『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』  そう言い放つと城から追い出そうとする姫。    そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。  残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。  「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」  陸はしがないただのサラリーマン。  しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。  今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――

みそっかすちびっ子転生王女は死にたくない!

沢野 りお
ファンタジー
【書籍化します!】2022年12月下旬にレジーナブックス様から刊行されることになりました! 定番の転生しました、前世アラサー女子です。 前世の記憶が戻ったのは、7歳のとき。 ・・・なんか、病的に痩せていて体力ナシでみすぼらしいんだけど・・・、え?王女なの?これで? どうやら亡くなった母の身分が低かったため、血の繋がった家族からは存在を無視された、みそっかすの王女が私。 しかも、使用人から虐げられていじめられている?お世話も満足にされずに、衰弱死寸前? ええーっ! まだ7歳の体では自立するのも無理だし、ぐぬぬぬ。 しっかーし、奴隷の亜人と手を組んで、こんなクソ王宮や国なんか出て行ってやる! 家出ならぬ、王宮出を企てる間に、なにやら王位継承を巡ってキナ臭い感じが・・・。 えっ?私には関係ないんだから巻き込まないでよ!ちょっと、王族暗殺?継承争い勃発?亜人奴隷解放運動? そんなの知らなーい! みそっかすちびっ子転生王女の私が、城出・出国して、安全な地でチート能力を駆使して、ワハハハハな生活を手に入れる、そんな立身出世のお話でぇーす! え?違う? とりあえず、家族になった亜人たちと、あっちのトラブル、こっちの騒動に巻き込まれながら、旅をしていきます。 R15は保険です。 更新は不定期です。 「みそっかすちびっ子王女の転生冒険ものがたり」を改訂、再up。 2021/8/21 改めて投稿し直しました。

クラス転移させられた元魔王

華乃アオ
ファンタジー
どーも、前世は魔王だったオレ、結城マオです。もう人として生きていくので納得したはずが、クラス転移で前世の世界に召喚されてしまいまして……。 ま、テンプレ満載で魔王倒してくれって?困りますよ、流石に身内は倒せませんって。いや、ホントに。 でもクラスメイトにどうやって説明を?裏切る形でいなくなるってのも少しね……。  じゃあ、どっちにもつかないことにします。うまく敵味方両方を操作しますから、ええ。

聖女なので公爵子息と結婚しました。でも彼には好きな人がいるそうです。

MIRICO
恋愛
癒しの力を持つ聖女、エヴリーヌ。彼女は聖女の嫁ぎ制度により、公爵子息であるカリス・ヴォルテールに嫁ぐことになった。しかしカリスは、ブラシェーロ公爵子息に嫁ぐ聖女、アティを愛していたのだ。 カリスはエヴリーヌに二年後の離婚を願う。王の命令で結婚することになったが、愛する人がいるためエヴリーヌを幸せにできないからだ。  勝手に決められた結婚なのに、二年で離婚!?  アティを愛していても、他の公爵子息の妻となったアティと結婚するわけにもいかない。離婚した後は独身のまま、後継者も親戚の子に渡すことを辞さない。そんなカリスの切実な純情の前に、エヴリーヌは二年後の離婚を承諾した。 なんてやつ。そうは思ったけれど、カリスは心優しく、二年後の離婚が決まってもエヴリーヌを蔑ろにしない、誠実な男だった。 やめて、優しくしないで。私が好きになっちゃうから!! ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。誤字もお知らせくださりありがとうございます。修正します。ご感想お返事ネタバレになりそうなので控えさせていただきます。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

処理中です...