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第7話 力の行方

変化 Episode:04

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「えっと……」

 こういう屋敷からだと、うっかり連絡が出来ない。

 なにしろ言う先はシュマーだ。
 ここに備え付けの通話石なんか使ったら、履歴からバレてしまうだろう。
 もちろん、学院支給の通話石を使うワケにもいかなかった。

 ――このへんのこと、何か考えておかないと。

 こんなことがあるたびに、連絡ひとつで手間取ってるようじゃ、イザというときに間に合わないだろう。
 ともかく屋敷の人に上手く言って外へ出ようと、屋敷の中を歩き出す。使用人部屋は、1階の北側にあったはずだ。

「おや、シエラから来たお嬢さんが、こんなところまで何のご用です?」

 やっと見つけた女中さんが、声をかけてきた。あたしたちのことは、屋敷の全員にきちんと伝えられてるみたいだ。

「殿下のお相手に呼ばれたのでしたら、こちらは見当違いの場所ですよ。ご案内しましょうか?」

 前言撤回、ちゃんと伝わってない。
 けど「護衛だ」と訂正するともっとややこしくなりそうな気がしたから、そのままにする。

「あの、そうじゃなくて……ちょっと外へ、出たいんです」
「外へ? それは私には、判断がつきませんねぇ」

 本当にこういうところは、たかが外へ出るだけでも一苦労だ。
 警備が厳重なのはいいけれど、その分コトがなかなか運ばない。

「先輩から、任務の件で用事を言い付かったんです。ダメでしょうか?」
「あら、そういうことですか。でしたらちょっとお待ちくださいね」

 この人たちも、用事を言いつけられることには慣れてるからだろう。
 すんなり納得してくれて、どこだかへ連絡して、警備の人のところへ連れて行ってくれた。

 さらにそこで、あたしの代わりに説明までしてくれる。おかげで、簡単に外出の許可が出た。

「ありがとうございます、助かりました」
「いえいえ。殿下からお嬢様には、よくするようにと言いつけられてますしね」
「そう、なんですか……」

 いったい殿下、何を考えてるんだろう?

 不思議に思いながらも公共の通話機を探して、シュマーのほうへ、ムダになるかもしれないことも含めて連絡する。
 それから屋敷へ戻ると、思ったとおりみんなが集まっていた。

「ルーフェイア、派遣の追加が決まったわ」

 思った通りの言葉で、エレニア先輩が切り出した。

「まだ学院へ要請が出た段階だから、本決まりじゃないけど。でも新規じゃなくて延長だから、ほぼ通るでしょうね」
「そう……なんですか。えっと、そしたら、どのくらいの期間ですか?」

 おおよその見当はついていたけれど、一応尋ねてみる。

「建国祭終了までだから、一週間ほどだな」

 代わって答えたシルファ先輩の言葉も、思ったとおりだった。

 ――それにしても、こんなに簡単に追加が決まっていいものなんだろうか?

 曲がりなりにもシエラからの派遣だ。けっしてタダじゃないはず。
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