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第6話 立ち上がる意思
意思 Episode:07
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◇Rufeir
「先輩、その……さっきは、すみませんでした」
少し落ちついたところで、あたしはタシュア先輩に謝りに行った。
本当は行かなくてもいいのかもしれないけど、それだとあたしの気が済まない。
言われて初めて気がついた。
あたしには、ちゃんと両親がいる。
イマドも、先輩たちも、シーモアもナティエスもミルも……両方、あるいは片親がいないのに。
自分がこんなに多くのものを持っていたことに、どうして気づかなかったんだろう?
結局あたしは辛かったことだけを抱えて、そこで泣いていただけだったのだ。
逃れたいといいながら、自分でその手に辛さを抱きしめていた。これで逃れられるわけがない。
――この手を、放さなくちゃ。
そうして身軽になって、歩き出さなくちゃいけない。
怖いけど。不安だけど。でもやらなきゃ……。
いろいろなことが頭をよぎる中、真っ直ぐにタシュア先輩を見る。
こんなふうに先輩を見ることができたのは、初めてかもしれない。
「何を謝るのですか? 何か悪いことでもしたという意識があるのですか?」
それが先輩の返答だった。
とたんに何を言ったらいいのかわからなくなる。
――だめ、考えなくちゃ。
自分が何を言いたいのか、今どうしたいのか、必死に考える。
「えぇと、あの、あたし先輩に……」
「ですから、何をしたというのです?」
タシュア先輩って、どうしてこう意地悪なんだろう?
おかげでまたどう言ったらいいのか、分からなくなってしまった。
なかなか適当な言葉が思い浮かばない。
泣きそうになるけどどうにかこらえて、また必死に考える。
「ルーフェイア、いい顔になったな」
「え?」
突然のシルファ先輩の言葉に驚いた。
「あたしが……?」
信じられない言葉。
困惑してイマドの方へ振り向く。
「俺もそう思う。お前今、いい顔してるぜ」
同じことを言われて、ますます困惑する。
「どう見てもまだ、ヒヨコですがね」
タシュア先輩……怒らない?
そして気が付いた
もしかしてこれ、みんなあたしのこと、褒めてるんだろうか?
――うそ、みたい。
こんな風に正面切って、あたしにいろいろ言ってくれるなんて。
今までそんなことはなかった。
「グレイス」という名のせいで誰もあたしの傍へは来なかったし、普通に扱ってくれる人もいな かった。
それに何もかも、「出来てあたりまえ」にされてたから……。
こんどは、涙をこらえきれなかった。
泣いちゃダメだと思うけど、どれほどぬぐっても、あふれてくる。
「ごめんなさい……あたし、やっぱり……」
「ま、そういうのなら、泣いてもいいんじゃねぇか?」
イマドが笑った。
「――わたしも、こういうことなら悪いとは思わないが」
シルファ先輩もそう言ってくれる。
「やれやれ……泣き虫は相変わらずですね。
あなた一人が、重いものを背負っているわけではありませんよ。自分だけが悲劇の主人公などと、思いこまないことですね」
「――はい」
あたしのことだ。きっとまた泣いてしまうだろうし、座りこんでしまう時だってあるだろう。
――でも、みんないるから。
だからきっと、立ちあがれる。
波が無限の回数、よせては返すように……。
◇あとがき◇
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
第6話の「立ち上がる意思」はここで完結し、 次から第7話「力の行方」の連載となります。
実はここまでが序章チックで、次の7話からが本番、という感じです。
今後もよろしくお願いします!
小説大賞に応募中です
投票していただけたら嬉しいです
感想等大歓迎です! お気軽にどうぞ
「先輩、その……さっきは、すみませんでした」
少し落ちついたところで、あたしはタシュア先輩に謝りに行った。
本当は行かなくてもいいのかもしれないけど、それだとあたしの気が済まない。
言われて初めて気がついた。
あたしには、ちゃんと両親がいる。
イマドも、先輩たちも、シーモアもナティエスもミルも……両方、あるいは片親がいないのに。
自分がこんなに多くのものを持っていたことに、どうして気づかなかったんだろう?
結局あたしは辛かったことだけを抱えて、そこで泣いていただけだったのだ。
逃れたいといいながら、自分でその手に辛さを抱きしめていた。これで逃れられるわけがない。
――この手を、放さなくちゃ。
そうして身軽になって、歩き出さなくちゃいけない。
怖いけど。不安だけど。でもやらなきゃ……。
いろいろなことが頭をよぎる中、真っ直ぐにタシュア先輩を見る。
こんなふうに先輩を見ることができたのは、初めてかもしれない。
「何を謝るのですか? 何か悪いことでもしたという意識があるのですか?」
それが先輩の返答だった。
とたんに何を言ったらいいのかわからなくなる。
――だめ、考えなくちゃ。
自分が何を言いたいのか、今どうしたいのか、必死に考える。
「えぇと、あの、あたし先輩に……」
「ですから、何をしたというのです?」
タシュア先輩って、どうしてこう意地悪なんだろう?
おかげでまたどう言ったらいいのか、分からなくなってしまった。
なかなか適当な言葉が思い浮かばない。
泣きそうになるけどどうにかこらえて、また必死に考える。
「ルーフェイア、いい顔になったな」
「え?」
突然のシルファ先輩の言葉に驚いた。
「あたしが……?」
信じられない言葉。
困惑してイマドの方へ振り向く。
「俺もそう思う。お前今、いい顔してるぜ」
同じことを言われて、ますます困惑する。
「どう見てもまだ、ヒヨコですがね」
タシュア先輩……怒らない?
そして気が付いた
もしかしてこれ、みんなあたしのこと、褒めてるんだろうか?
――うそ、みたい。
こんな風に正面切って、あたしにいろいろ言ってくれるなんて。
今までそんなことはなかった。
「グレイス」という名のせいで誰もあたしの傍へは来なかったし、普通に扱ってくれる人もいな かった。
それに何もかも、「出来てあたりまえ」にされてたから……。
こんどは、涙をこらえきれなかった。
泣いちゃダメだと思うけど、どれほどぬぐっても、あふれてくる。
「ごめんなさい……あたし、やっぱり……」
「ま、そういうのなら、泣いてもいいんじゃねぇか?」
イマドが笑った。
「――わたしも、こういうことなら悪いとは思わないが」
シルファ先輩もそう言ってくれる。
「やれやれ……泣き虫は相変わらずですね。
あなた一人が、重いものを背負っているわけではありませんよ。自分だけが悲劇の主人公などと、思いこまないことですね」
「――はい」
あたしのことだ。きっとまた泣いてしまうだろうし、座りこんでしまう時だってあるだろう。
――でも、みんないるから。
だからきっと、立ちあがれる。
波が無限の回数、よせては返すように……。
◇あとがき◇
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
第6話の「立ち上がる意思」はここで完結し、 次から第7話「力の行方」の連載となります。
実はここまでが序章チックで、次の7話からが本番、という感じです。
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