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第6話 立ち上がる意思

海原 Episode:08

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◇Tasha side

「じゃぁ、ちょっといってくる」
「いってらっしゃい」

 シルファが歩いていく。
 下級生を連れて歩く様子は、まるで幼稚園の先生のようだ。

 タシュアからしてみれば、「甘い」としか言いようがない。
 なにしろあのミルドレッドがいるのだ。こうなるのは目に見えている。

 だがシルファのこういう優しさは、嫌いではなかった。
 何よりああやって慕ってくれる後輩が居るのは、人が苦手なシルファにとっては、いいことだろう。

(――ミルドレッドに関しては、疑問が残りますがね)

 あれを「慕っている」とは、ふつう言わないだろう。
 どう贔屓目に見ても、単純に騒いでるだけにしか見えない。

 周りもよく、あの子のああいう行動を許しておくものだと思う。
 もっともああいう性格では、言うだけ無駄なのかもしれないが。

 もうひとつ意外だったのはルーフェイアだ。まさか泳げないとは思わなかった。

 ただよく考えてみれば、先日海へ落ちた際にも泳ごうとはしなかった。
 かなり危険な精神状態だったとは言え、普通なら何かするだろう。だが泳げないのなら、あの行動も納得がいく。

(もしまた海にでも落ちたら、どうするつもりだったのやら)

 前回は運良く人目のあるところだったが、次はどうなるか分からない。
 ましてや泳げないのでは、助けてもらう前に死ぬ可能性は高いのだ。

 泳げないからと、素直に教えてもらおうとする姿勢は評価出来るのだが……やはりこちらも、甘いとしか言いようがない。

(――ルーフェイア、それは「浮いている」というんです)

 向こうのほうで泳ぐ後輩の姿に、つい突っ込む。
 だいいちあんな浅いところで、どうやったら上達するというのか。

 だが教えているシルファは、ずいぶん楽しそうだ。
 教えることに関して適正があるのかもしれない。

 その様子を横目に、タシュアは荷物へ手を伸ばした。
 この調子ではしばらくかかるだろうから、持ってきておいた読みかけの本の続きでも、と思ったのだ。

 日陰に腰を下ろし、読み始める。

 そうやってどのくらい経っただろう?
 何かを感じた気がして顔を上げると、一行の頭数が減っていた。

 何となく視線をめぐらせて探してみると、向こうの岩場へと向かう、ナティエスとミルドレッドの姿があった。
 ルーフェイアの相手に飽きて、遊びに行くことにしたらしい。

 それにしても、ミルドレッドの浮かれぶりは常識はずれだ。
 あれで岩場へ行こうものなら、足を滑らすのは間違いない。

 そう思っている矢先、後輩が足を滑らせて尻餅をついた。

(……なんと言いますか)

 ここまで予想通りでなくてもいいだろう、そう言いたくなる。
 よくあれでAクラスにいられるものだ。

 ただ、これといって怪我はしなかったようだ。
 すぐに立ち上がって沖へと伸びる岩場を、ナティエスとじゃれ合いながら歩いていく。

(――?)

 それを見ていたタシュアの表情が、僅かに変わる。何か影を見た気がしたのだ。
 ほんの一瞬のことで、気のせいだとも思える。だが、なぜかやけに引っかかった。

(武器だけでも、用意しておきますか)

 いつものように音も気配もさせず、タシュアは立ち上がった。
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