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第5話 表と裏
恐慌 Episode:08
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(それにしても、予想外でしたね)
シュマー家のグレイス姓を名乗るルーフェイアが、まさかこれほど脆いとは思わなかった。
シュマーの名に、惑わされたのかもしれない。
後輩がさらに続ける。
「先輩なら、あいつがなんでここへ来たか、分かってるんじゃないです?」
その言葉に、タシュアは思った。
(確かに私だけ、でしょうね)
あの場所に何があるのか知っているのは、ここの生徒では、自分とルーフェイアの二人だけだろう。
忘れたくても忘れられない、忘れるわけにいかないものしか、あそこにはない。
「だからせめて今くらい、そっとしといてやってください」
なおも何か言おうとする後輩との間に、シルファが割って入った。
「イマド……だったか? あとは私が、よく言っておくから。だから、あの子のところへ……行っては、どうだろう?」
シルファの提案に、まだ言い足りなさそうだったが、イマドは軽く頭を下げて去った。
やはりルーフェイアのことが、気になるのだろう。
彼が行ったのを見届けて、シルファが口を開いた。
「まったく。だから言ってるだろう、いつも言いすぎだと」
「ふつうはあの程度で、あんなふうになったりしませんよ。脆いにしても度が過ぎます」
タシュアが即座に言い返す。
もっともシルファは慣れっこで、気にする様子はなかった。
「だがああいう子が居ても、おかしくないだろう? いろいろなのだし」
「確かにそうですがね」
今回はさすがに、タシュアのほうが少し分が悪い。だが、それで引き下がる彼でもない。
「あとできちんと謝ったほうが、いいんじゃないか?」
「事実を指摘しただけで、謝るようなことはしていませんが」
シルファの顔が曇った。
「確かに、そうなんだが。だがここは、家だから……」
視線を落とす彼女に対し、珍しく毒舌は返ってこなかった。
シルファの学院に対する思いを、知らないタシュアではない。
そして優しい彼女のことだ。自分と同じように、少女にも居場所であってほしいのだろう。
「ともかく、その……なんとか、ならないか? あれではタシュアの顔を見るたび、また同じことになると思う」
「それはあの子自身の問題だと思いますがね?」
なおも言い切るタシュアに、シルファは押し黙った。
シュマー家のグレイス姓を名乗るルーフェイアが、まさかこれほど脆いとは思わなかった。
シュマーの名に、惑わされたのかもしれない。
後輩がさらに続ける。
「先輩なら、あいつがなんでここへ来たか、分かってるんじゃないです?」
その言葉に、タシュアは思った。
(確かに私だけ、でしょうね)
あの場所に何があるのか知っているのは、ここの生徒では、自分とルーフェイアの二人だけだろう。
忘れたくても忘れられない、忘れるわけにいかないものしか、あそこにはない。
「だからせめて今くらい、そっとしといてやってください」
なおも何か言おうとする後輩との間に、シルファが割って入った。
「イマド……だったか? あとは私が、よく言っておくから。だから、あの子のところへ……行っては、どうだろう?」
シルファの提案に、まだ言い足りなさそうだったが、イマドは軽く頭を下げて去った。
やはりルーフェイアのことが、気になるのだろう。
彼が行ったのを見届けて、シルファが口を開いた。
「まったく。だから言ってるだろう、いつも言いすぎだと」
「ふつうはあの程度で、あんなふうになったりしませんよ。脆いにしても度が過ぎます」
タシュアが即座に言い返す。
もっともシルファは慣れっこで、気にする様子はなかった。
「だがああいう子が居ても、おかしくないだろう? いろいろなのだし」
「確かにそうですがね」
今回はさすがに、タシュアのほうが少し分が悪い。だが、それで引き下がる彼でもない。
「あとできちんと謝ったほうが、いいんじゃないか?」
「事実を指摘しただけで、謝るようなことはしていませんが」
シルファの顔が曇った。
「確かに、そうなんだが。だがここは、家だから……」
視線を落とす彼女に対し、珍しく毒舌は返ってこなかった。
シルファの学院に対する思いを、知らないタシュアではない。
そして優しい彼女のことだ。自分と同じように、少女にも居場所であってほしいのだろう。
「ともかく、その……なんとか、ならないか? あれではタシュアの顔を見るたび、また同じことになると思う」
「それはあの子自身の問題だと思いますがね?」
なおも言い切るタシュアに、シルファは押し黙った。
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