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第5話 表と裏

恐慌 Episode:04

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◇Tasha & Sylpha side

「すまない、つき合わせてしまって」
「別に構いませんよ。私も用がありましたし」

 ケンディクの街を、二人の男女が歩いていた。

 ひとりはつややかな長い黒髪に、紫水晶の瞳をした女性。
 もうひとりは三つ編みにした長い銀髪と、紅の瞳をした青年。
 どちらも長身で、しかも美男美女だ。通行人も、かなりの人数が振り返ってチラ見している。

 だがこのニ人、もし学院の生徒が見たなら避けて通るだろう。
 女性の方はまだ「可愛げがない」程度で通っているが、この青年となると「学内で並ぶもののない毒舌家」との評価なのだ。

 ――言わずと知れた、タシュアとシルファだった。

 そうしょっちゅうではないが、街でしか手に入らないものを買いに、こうしてニ人でケンディクの街へ来ることはある。

「そういえば……」

 言いかけて、シルファは口をつぐんだ。自分としては気になる噂を聞いたのだが、それをタシュアに言っても意味がないような気がしたのだ。

「なんですか? 途中で止めたりして」
「いや、たいした話じゃないんだが……この間タシュアが野外訓練で一緒になったルーフェイアという子、倒れたそうだ」
「それは初耳ですね」

 一瞬、タシュアは不審に思う。

 訓練が祟って生徒が倒れることは時々あるが、去年の夏に中途入学した彼女――ルーフェイア=グレイスに限っては、まずそんなことはないだろう。
 なにしろあのシュマー家が誇る、最強の戦士なのだ。

 とはいえまだ、彼女が11歳でしかないのも事実だ。身体が出来あがっているとは言い難い。

「単に疲れでも溜まったのではないですか? それよりシルファ、早くしないと日が暮れますよ。今日は買うものが多いのでしょう?」
「そうだな」

 もう何年も歩いて慣れた街を、手早く回って行く。
 ひととおり揃え終わった頃には、それなりの包みを、シルファはタシュアに持たせていた。

「これでぜんぶですか? なら、戻りましょうか」
「ああ」

 うっかり港側から回ったため、帰るにはもういちど街を横切らなくてはならない。

「反対から回るべきでしたかね?」

 言いながらタシュアは歩き始めた。シルファもなにも言わずについてくる。
 足を向けた港は、いつものように穏やかだった。よい天気に誘われたのだろう、けっこう人が出ている。
 と、すっとタシュアが立ち止まった。
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