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第5話 表と裏
恐慌 Episode:03
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◇Rufeir
ふっと目が覚めた。
イマドが心配そうな顔でのぞきこんでいる。
目が合うと、静かな声で聞いてきた。
「気持ち悪くねぇか?」
「……うん」
ここ何日か吐き気がして食べられなかったのを、彼はずいぶん心配していた。
でも今日は少し、身体が楽だ。
窓の外は、数日ぶりに雲一つない青空だった。
「今日って……お天気、いいんだね」
腕に力を入れて起き上がろうとしたら、なんだかめまいがした。
「ムリすんなよ」
「……起きたいの」
よく分からないけど、あの空を見ていたら、そう思った。
きっと外へ出たら、気持ちいいだろう。
イマドが察してくれたみたいで、窓を開けた。
「あ、気持ちいい」
吹き込んでくる風。
ちょっとだけ心が軽くなった気がする。
「少し、外でも出るか?」
「……うん」
もしかしたらムアカ先生に止められるかと思ったけれど、あっさり許可が出た。
なんだか安心して、着替えて立ちあがる。
足元も、思ったよりはしっかりしていた。これなら少し、遠出できるかもしれない。
そっと、歩き出す。イマドがペースをあわせて、ついてきてくれた。
いつもよりずっと長い時間をかけて、船着場までの坂を下る。
遠く遥かに広がる、碧い海。
いろいろな想いが、その碧の中に溶けていく。
「どうする? ケンディクまで行ってみっか?」
「そうだね……あの街、見たいな」
あの青い街。大好きだ。
時々あたし、用事がなくても出かけて、散歩したり港で海を眺めたりしてる。
「んじゃそうすっか」
「……ありがと」
ちょうど来ていた連絡船に、用心しながら乗り込む。さすがに五日も寝てたから、気を抜くとふらつきそうだ。
窓際の席に座る。
船が出て、景色が動き始めた。
このあいだ来た時よりもまた、緑が濃くなっている。陽の光の下で輝く緑は、なんだか涙がでそうに綺麗だった。
船体が碧いうねりの間で揺れる。
青と白の街が近づいてくる。
「だいじょぶか?」
久々に外へ出たのを心配してるみたいで、イマドが声をかけてきた。
「うん。思ってたより、調子……いいみたい」
「そか」
長居はムリだろうけど、あの埠頭から海を眺めるくらいはできそうだ。
少し元気が出てくる。
やがて、船が止まった。
揺れる足元に気をつけながら降りて、歩き出す。
いつもと同じ、青い街。
風に混ざる潮の香。
シエラの船着場は入り江の中で、外洋はあまり見えないけど、ここは視線の先にどこまでも碧が広がる。
「きれい……」
穏やかな風、穏やかな海。
見てると気持ちが落ち着いてくる。
「あの先まで……行って、いい?」
「気をつけろよ?」
いちばん好きな、埠頭の先まで行ってみる。
近くで覗くとこの海、びっくりするほど透明度が高い。底まで見えて、きれいな魚が横切って行く。
「ねぇ、しばらくここにいて……いい?」
「あぁ。そしたらなんか飲むか? 買ってきてやるよ」
「……ありがと」
待ってろと言って、イマドは向こうの店のほうへ駆けて行った。
ひとりになる。
でも不思議と、あたしは落ちついていた。ここ数日の落ちこみが、嘘みたいだ。
――この海のせい、なんだろうな。
ぼんやりとそんなことを思った。
明日もまた、来てみようかな?
でもイマドはそうそう、あたしに付き合ってはいられないだろうし。
ゆらめく水面に手もとの石を投げると、ぽちゃんと沈んで輪を描いた。
それがなんだか、可笑しい。
端からみたらきっと変に見えるだろうけど、なんとなく笑みがこぼれた。
と。
(なに……)
なぜだろう。何かの、予感。
ぞっとして、あたしは振りかえりつつ立ちあがった。
ふっと目が覚めた。
イマドが心配そうな顔でのぞきこんでいる。
目が合うと、静かな声で聞いてきた。
「気持ち悪くねぇか?」
「……うん」
ここ何日か吐き気がして食べられなかったのを、彼はずいぶん心配していた。
でも今日は少し、身体が楽だ。
窓の外は、数日ぶりに雲一つない青空だった。
「今日って……お天気、いいんだね」
腕に力を入れて起き上がろうとしたら、なんだかめまいがした。
「ムリすんなよ」
「……起きたいの」
よく分からないけど、あの空を見ていたら、そう思った。
きっと外へ出たら、気持ちいいだろう。
イマドが察してくれたみたいで、窓を開けた。
「あ、気持ちいい」
吹き込んでくる風。
ちょっとだけ心が軽くなった気がする。
「少し、外でも出るか?」
「……うん」
もしかしたらムアカ先生に止められるかと思ったけれど、あっさり許可が出た。
なんだか安心して、着替えて立ちあがる。
足元も、思ったよりはしっかりしていた。これなら少し、遠出できるかもしれない。
そっと、歩き出す。イマドがペースをあわせて、ついてきてくれた。
いつもよりずっと長い時間をかけて、船着場までの坂を下る。
遠く遥かに広がる、碧い海。
いろいろな想いが、その碧の中に溶けていく。
「どうする? ケンディクまで行ってみっか?」
「そうだね……あの街、見たいな」
あの青い街。大好きだ。
時々あたし、用事がなくても出かけて、散歩したり港で海を眺めたりしてる。
「んじゃそうすっか」
「……ありがと」
ちょうど来ていた連絡船に、用心しながら乗り込む。さすがに五日も寝てたから、気を抜くとふらつきそうだ。
窓際の席に座る。
船が出て、景色が動き始めた。
このあいだ来た時よりもまた、緑が濃くなっている。陽の光の下で輝く緑は、なんだか涙がでそうに綺麗だった。
船体が碧いうねりの間で揺れる。
青と白の街が近づいてくる。
「だいじょぶか?」
久々に外へ出たのを心配してるみたいで、イマドが声をかけてきた。
「うん。思ってたより、調子……いいみたい」
「そか」
長居はムリだろうけど、あの埠頭から海を眺めるくらいはできそうだ。
少し元気が出てくる。
やがて、船が止まった。
揺れる足元に気をつけながら降りて、歩き出す。
いつもと同じ、青い街。
風に混ざる潮の香。
シエラの船着場は入り江の中で、外洋はあまり見えないけど、ここは視線の先にどこまでも碧が広がる。
「きれい……」
穏やかな風、穏やかな海。
見てると気持ちが落ち着いてくる。
「あの先まで……行って、いい?」
「気をつけろよ?」
いちばん好きな、埠頭の先まで行ってみる。
近くで覗くとこの海、びっくりするほど透明度が高い。底まで見えて、きれいな魚が横切って行く。
「ねぇ、しばらくここにいて……いい?」
「あぁ。そしたらなんか飲むか? 買ってきてやるよ」
「……ありがと」
待ってろと言って、イマドは向こうの店のほうへ駆けて行った。
ひとりになる。
でも不思議と、あたしは落ちついていた。ここ数日の落ちこみが、嘘みたいだ。
――この海のせい、なんだろうな。
ぼんやりとそんなことを思った。
明日もまた、来てみようかな?
でもイマドはそうそう、あたしに付き合ってはいられないだろうし。
ゆらめく水面に手もとの石を投げると、ぽちゃんと沈んで輪を描いた。
それがなんだか、可笑しい。
端からみたらきっと変に見えるだろうけど、なんとなく笑みがこぼれた。
と。
(なに……)
なぜだろう。何かの、予感。
ぞっとして、あたしは振りかえりつつ立ちあがった。
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