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第5話 表と裏

恐慌 Episode:01

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◇Imad

 野外訓練が終わって自室へ戻ったあと、俺はどうにも落ち着かなかった。すっげぇヤな予感がしてしょうがない。
 あの訓練が終わったときのルーフェイア、ただごとじゃなかった。倒れるんじゃないかと思ったくらいだ。

 ――行ってみっかな。

 ともかく気になる。
 ただ、女子寮へ行くのはちとしり込みだった。

 昼の間なら、受付のとこでちゃんと言えば入れてもらえっけど……傭兵隊の資格持ってねぇのに行くと、あとで教官に呼ばれるのがパターンだ。

 そんでも結局、俺は部屋を出た。なんかよく分かんねぇけど、ルーフェイアのほうから、聞こえる気がする。
 あいつの部屋は、渡り廊下挟んだ女子寮の3階だ。
 けど部屋どころか、向こうの受付まで行く前に、意外な先輩と出くわした。

「ロア先輩?」

 なんか、やけに慌ててる。

「あ、キミ、ちょうどいいや。ちょっとムアカ先生呼んできて!」
「なんかあったんです?」

 ヤな予感が的中したっぽい。

「うん、ちょっとルーフェが倒れちゃってさ……あ、ちょっと!」

 聞いた瞬間、俺は走り出してた。受付とかそゆのぜんぶ忘れて、あいつの部屋へ飛び込む。

「ルーフェイアっ!」

 呼ぶと、その声にルーフェイアが反応した。

「イマ……ド……?」

 弱々しい声。
 顔色も悪いとか通り越して、真っ白に見える。

「どした!?」
「……怖い……」

 こんなにおびえたルーフェイア見んのは、俺も初めてだった。
 理由はどう考えたって、“あれ”だろう。

 ――ったく、何考えてんだよ!

 あの先輩の毒舌冷酷自分勝手は、そりゃ今に始まったことじゃない。けど、相手考えろと思う。
 ルーフェイアが脆いのなんざ、見りゃ分かるだろうに。

「だいじょぶか?」

 こんなことっきゃ言えねぇ自分に、いちばん腹が立った。

「ゴメン、俺ってばなんも役に立ってねぇな」

 ルーフェイアのヤツが、かすかに首を振る。

「行かない、で……」
「分かった」

 俺が間髪入れずに答えると、コイツの表情が少しゆるんだ。

「急患はどっちなの」
「ボクの部屋です!」

 むこうから、慌しい足音と話し声とが聞こえてくる。
 すぐに勢いよくドアが開いて、ロア先輩とムアカ先生とが入ってきた。

「あらま、ここは女子寮だと思ったけど」
「え? あ、すいません」

 勢いで女子寮突っ込んだの、やっと気がつく。
 けどルーフェイアのヤツにああ言っちまった手前、出てくわけにもいかねぇし。

「ほら、あなた早く男子寮へ……ってなるほど、そういうことね」

 涙ためて見上げるこいつの様子で、ムアカ先生も事情を察したらしい。

「先輩、なにがあったんですか?」

 いちばん聞きたかった質問を、俺は先輩にぶつけた。

「それがさ、ボクにもよくわかんなくってね。あの子がネット上がろうとして、誰かが監視してるのに気づいてさ」

 多分タシュアだろうけど、とロア先輩が付け加える。

「そしたらいきなりルーフェイアが吐いて、倒れちゃったんだ」
「そうだったんですか……」

 引き金は、昼間の話だろう。たしかルーフェイア、「タシュア先輩にぜんぶ知られた」みたいなこと言ってたはずだ。
 それで参ってたとこへ、そのご当人に監視までされて、一気にいったっぽい。
 思わず壁を叩いた。

「き、キミ、分かったから落ち着こうよ」
「……すいません」

 そんなやり取りしてたら、ムアカ先生に呼ばれた。

「もういいわよ。呼んでるから、ここに居てあげなさいね」
「あ、はい」

 許可もらって、こいつの部屋へ入る。
 おっくうらしくて視線だけで俺を見上げたルーフェイアは、こないだまで同居してた先輩の妹みたいに、小さくて頼りなかった。
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