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第5話 表と裏

実力 Episode:09

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「まさか、あの、追いかけてきた――?」
「追いかけ? 何の話だ?」

 例のことは知らないイマドが、不思議そうな顔をした。でもあたしの中で、はっきりと線がつながる。
 数日前あたしを追いかけてきた、“誰か”。あれほどの腕をした人間が、そうそう学内にいるとは思えない。

 そして、あたしの素性を知るタシュア先輩。
 二人が同一なのは、おそらく間違いないだろう。

 だとしたらあの先輩はもう、シュマーの中へ入り込んでる。自由に情報を、盗み出すところまできてる。

 証拠はない。
 ただの推測だ。
 でも先輩が言った言葉は、そうとでも考えないと、説明がつかなかった。

 もちろん他のどこかから、情報を手に入れた可能性はゼロじゃないけど……ゼロじゃないってだけで、限りなく低い。
 だからおそらく、シュマーそのものからだろう。

 そうだとすると最悪、シュマーの全員に被害が及ぶ可能性がある。
 吐き気がした。
 これほどの恐怖を感じたのは、もしかすると初めてかもしれない。

「だいじょぶか? かなり顔色悪りぃぞ」
「だいじょうぶ……だと、思う」

 そう言って、やっとの思いで立ち上がる。
 自分でも信じられないほど、足元が危なかった。

「歩けっか?」
「うん……どうにか」

 答えて、あたしはイマドといっしょに、集合場所へと歩き始めた。



「えぇ~!よりによって、あいつに知られたわけ?!」

 部屋へ戻ってきたロア先輩に昼間のことを言うと、イマドとほとんど同じリアクションをした。

「やっぱり……まずいですか?」
「多分学院内じゃ、いちばんヤバい相手だね」

 それを聞いて、気が重くなる。もしこれで家のみんなになにかあったら、完全にあたしのせいだ。
 特にシュマー家を支えてくれてる、ロシュマーの面々に申し訳が立たない。

 何しろ彼らは後方支援特化で、あたしたちみたいに戦う術なんて持たないのだから。
 場合によっては全員に、退避と引っ越しをしてもらったほうがいいかもしれない。

 ともかくことの次第だけは連絡しようと、端末を立ち上げる。
 その時、ふと思いついた。

「ロア先輩、タシュア先輩のラストネーム、リュウローンですよね?」
「そだけど?」

 ロア先輩、タシュア先輩と同じクラスなだけあって即答する。
 リュウローン。
 その名にあたしは、聞き覚えがあった。たしか、どこかの研究者と同じだ。

 その人はもう亡くなってて、でも子供向けに易しく書いたこの人の研究の本を、読んだことがある。

 あと、研究にまつわるおかしな噂を、ファールゾンから聞いたことがあった。
 それがとても……気になる。
 ざっと経緯を書いたうえで、問い合わせ事項も付け加えて、伝言を魔視鏡から送ろうとした、その瞬間。

「だめっ、ルーフェ! そっち監視されてる!!」
「え……!」

 思わず驚いて、魔視鏡から手を離した。
 ロア先輩が隣の自分の機で、なにやら操作を始める。

「ったく、どこまで根性ひん曲がってんだか……あ、逃げられた!」

 先輩が悪態をつきながら立ちあがったけれど、あたしはもう聞いてなかった。
 身体が冷たくなる。
 怖い。
 まるで心臓を掴まれたみたいだ。

「ルーフェ?」

 あたしの様子に気がついたらしく、先輩が声をかけてくる。
 けど、答えることさえ出来ない。
 自分でもワケが分からないけど、立ってられない。
 また吐き気がして、あたしは口元を抑えた。

「ちょ、ちょっと大丈夫? 気持ち悪い?!」

 先輩の慌てた声。

「立てる? こっち来て……ほら、いいから吐いちゃって」

 抱えられるように連れて行かれた洗面所で、あたしは吐いて倒れた。
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