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第5話 表と裏

実力 Episode:06

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「誰が格下なんて言ったんだ? おまえの耳は節穴か?」

「自分の間違いにも気づかないとは、それでよく上級だなどと言えますね。言葉は正しく使わないと、恥の上塗りになるだけですよ。
 もっともあなたでは、いまさら塗るものもないかもしれませんが」

 この言葉に、相手の先輩が逆上する。

「てめぇっ!! ぶった切ってやる!!」

 一気に階下へ飛び降りてきた。

 でもタシュア先輩は、冷静なまま。
 ちょっと練習試合でもするような調子で、得物の両手剣――光をまったく反射しない、漆黒の刀身をしている――をすっと持ち上げただけだ。

 そしてあたしたちの方に視線を投げた。
 もちろん意味なんて、聞かなくても分かる。

 あたしとイマドは一瞬互いに視線を合わせると、守備側の死角になる位置から、階段の下へと動いた。
 一方でタシュア先輩は、ここから離れる方向へ、上手く相手の先輩を誘導していく。

 難関はこの階段。

「先に俺が」

 短く言って出たイマドを、とっさに防御魔法で援護しようとする。
 けど何か魔法でも使ったのか、こんな狭い場所なのに、彼の姿を見失った。

 敵側もそれは同じだったみたいで、大きな隙が出来る。

 これを逃す馬鹿はいない。あたしは一気に階段を駆け上がった。
 向こうが我に返って武器を構えたときには、あたしはもう肉薄していた。

 一閃。

 強烈な峰打ちを食らって、ひとり倒れる。けどそれは最後まで見ずに、あたしは身体を入れ替えた。
 後ろを取ったつもりでいたもう一人の先輩の長剣が、空を切る。

 ――あたしの後ろを取るなら、せめて気配くらいは消さないと。

 そして太刀をもう一度振るおうとした時、相手の動きが止まった。
 倒れた後ろには、イマドの姿。

「すごいこと……するね」

 まさか後ろから襲うとは、思わなかった。

「訓練だからって、気ぃ抜いてるヤツが悪いんじゃないか?」

 平然と言い放つ。

 ――イマドって思ってたより、凄い性格かも。

 でもとりあえずこれで、場所の確保はできた。
 あとはタシュア先輩が戻ってくるのを待つだけだけれど、いったいいつ頃……。

「綺麗に片付きましたね」
「――っ!!」

 真後ろから先輩の声がして、あたしは心臓が止まるほど驚いた。

「おや、どうしましたか?」

 また、タシュア先輩の瞳に光が閃く。まるで猫が、つかまえた鼠をおもちゃにするような……。

 ぞっとする。

 あたしだって戦場育ちだ。後ろを取られるのがどのくらい危険かは、骨身に染みて知っている。
 だいいちそういう環境で育ったから、あたしの後ろをとるのは傭兵の両親にだって出来ない。

 ――それなのに、この先輩は。

 もしこの先輩を敵にしたら、あたしは確実に死ぬだろう。
 寒気がした。
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