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第3話 葛藤

苦悩 Episode:02

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 ――バトルなら、考えなくても身体が動いて魔法を使えるのに。

 自分が情けなくて、涙がこぼれる。

 教室の中で、みんなといっしょにやっていきたい。
 ただそれだけのことさえ、あたしはまともに出来なかった。
 母さんがなぜあたしを学校に行かせなかったか、やっと分かった気がする。

 そのとき、アラームが鳴った。
 慌てて時計を見てみると、針が戻る時間を指している。

 涙をぬぐってから、あたしは走り出した。
 少し奥まで来てるから、急がないと船に間に合わない。
 魔獣をやり過ごしながら、船着場まで戻る。
 ちいさな詰め所の前に、人影があった。

「あぁ良かった、無事戻ってきたね」
「はい、遅くなってすみません」

 ここの守衛さんだ。

「いつも時間より早く帰ってくるのに、今日は遅いから心配したよ」

 続く言葉をいっかい飲み込んで、守衛さんがあたしの顔を覗き込んだ。

「――泣いてたのかい?」
「え? あ、なんでも、ありません……」

 恥ずかしくて下を向いたあたしに、守衛さんが声をかけた。

「こっちへおいで、お茶でも飲んでいきなさい」

 言って、詰め所のドアを開ける。

「あの、船は……?」

 心配になって尋ねる。
 船はちゃんと時刻表があって、定時に出さないといけないはずだ。
 でもおじさんは、ちょっと笑って答えた。

「船ならね、いま故障中だよ。うん、さっき故障したんだ」

 最後の便だから、自分が朝来た船で帰るだけだし、と付け加えて、おじさんは小屋にあたしを招き入れた。
 お茶とクッキーとが出される。

「さ、遠慮しないで食べなさい」
「ありがとう、ございます……」

 何かのハーブらしくて、カップからいい香りがしていた。
 それを見るうち、なぜか涙が出てくる。

「学院で、何かあったのかい?」

 聞かれたことに答えようとしたけど、よけい涙がこぼれただけだった。
 何とか泣くのをやめようとして、必死に涙をぬぐうあたしに、おじさんが言う。

「学院長から聞いたよ、少年兵あがりだそうだね」

 驚いて顔を上げると、おじさんの優しい表情があった。

「学院長とは、昔からの知り合いでね。きみがこっちで訓練するようになったから、と頼まれたんだよ。
 まだ、学院は慣れないかい?」

 また答えられなくて、下を向く。
 けどおじさんはあたしの様子で、分かってしまったみたいだった。

「聞いた話じゃ、いろいろ言われてるみたいだね」

 ほんとうは否定しなきゃいけないのかもだけど、できない。
 涙が次々あふれて、止まらなくなる。

「詳しく知っているわけじゃないから、的外れかもしれないが」

 そこでいっかい言葉を切って、おじさんはそっと、あたしの頭を撫でた。

「きみはこの学院に、居ていいんだよ」
「――!」

 その言葉を聞いた瞬間、あたしはいままで以上に泣き出してしまった。
 こんなことで、こんなに泣くなんてと自分でも思うけど、止めることができない。
 おじさんがそっと、あたしを抱き寄せた。

「辛かったら、いつでもここへ来なさい。
 のんびり休むくらいはできるし、お茶ならいくらでも出すよ」

 暖かい、笑顔と言葉。
 あたしがうなずくと、また頭を撫でられた。

「いい子だ。
 さ、もう少ししたら本島へ戻ろう。遅くなりすぎたらいけないからね」
「はい」

 少しだけ、元気をもらった気がした。

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