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第2話 抱えきれぬ想い
秘密 Episode:07
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◇Loa side
その晩もロアは、いつもと同じように「それ」を探していた。
次から次へと関係ありそうな場所へ侵入し、検索し、情報を漁る。
万一何か引っかかれば、それがたとえ噂話でも、詳細に探っていく。
だがそのどれもがほんとうに「単なる噂話」で、憶測の域を出ないものだった。
(ダメなのかな……)
つい、気弱が頭をもたげる。
年単位で、しかもかなりの危険を冒して探しているのに、いまだに証拠のカケラも見つからないのだ。
火のないところに煙は立たない。
ならばこれだけまことしやかに囁かれているのだから、必ずあるはず。
そう思って探し続けてきたが、もしかすると自分が追いかけているのは、実体のない都市伝説だったのかもしれない。そんな気がしてくる。
だとしたらどうするか、そんなことを考えた瞬間。
「あの、先輩、それ……」
「……!」
不意に後ろから声をかけられて、ロアは死ぬほど驚いた。
だがとっさに画面だけは切り替える。
うすうす感じてはいたが、それ以上に恐ろしい少女だったようだ。
ドアを開ける音もなければ、近づいた気配もなかった。
心底焦りながら振り返る。
見ればルーフェイア自身は、別にわざとではないらしい。
どういう育ちかたをしたのか、これが当たり前のようだ。
ただ少女の口から出たのは、それ以上に予想外の言葉だった。
「あ……もっと……」
「え?」
意味が飲み込めずに一瞬考え込む。
もっとと言うからには、何かをさらにと言うわけで、その「何か」が何かと言うと……。
自分でもよく分からない思考ルートを、それでも大急ぎで二周ほどして、ロアは結論にたどり着いた。
「こういうの、好きなんだ?」
さすがに怖いので、「何が」とは訊かない。
「えっと、あの、不正アクセス……ですよね?」
「うん」
そこまで分かっているならと、ロアはあっさり認める。
「やってたんだ?」
「いえ、初めて、見ました……」
これは意外だった。
基本的にこういうものは映像と違って、見てすぐ分かるものではない。
それなりの知識が要る。
なのに初めて見てそれに思い当たるとは、けっこうカンも鋭いようだ。
「それでよく分かったなぁ。
あ、そうそう、これナイショにしといてね」
ルーフェイアはそのあたりでほいほい喋るタイプではないが、いちおう釘を刺す。
学院では諜報活動教育の一環で、この手の不正侵入や防御も教えている。
だが実際にやっていいのは、任務や授業の中だけだ。
個人で勝手にやっているのを見つかったら、もちろん怒られる。
ただ腕に覚えのある学院生ともなると、監視を簡単にかいくぐってしまい、いたちごっこだ。
しかもそれが、ハイレベルな諜報員を生み出す要素のひとつにもなっているのだから、皮肉な話だった。
「さ、もう遅いし寝なくちゃね」
ロアは魔視鏡をオフにして立ち上がった。
自分ひとりならともかく、こんな遅くまで、まだ小さい後輩を起こしておくわけにはいかない。
だがいつも素直な後輩が、珍しく不満そうだ。
諦めきれないようすで、ロアの端末を見ている。
その晩もロアは、いつもと同じように「それ」を探していた。
次から次へと関係ありそうな場所へ侵入し、検索し、情報を漁る。
万一何か引っかかれば、それがたとえ噂話でも、詳細に探っていく。
だがそのどれもがほんとうに「単なる噂話」で、憶測の域を出ないものだった。
(ダメなのかな……)
つい、気弱が頭をもたげる。
年単位で、しかもかなりの危険を冒して探しているのに、いまだに証拠のカケラも見つからないのだ。
火のないところに煙は立たない。
ならばこれだけまことしやかに囁かれているのだから、必ずあるはず。
そう思って探し続けてきたが、もしかすると自分が追いかけているのは、実体のない都市伝説だったのかもしれない。そんな気がしてくる。
だとしたらどうするか、そんなことを考えた瞬間。
「あの、先輩、それ……」
「……!」
不意に後ろから声をかけられて、ロアは死ぬほど驚いた。
だがとっさに画面だけは切り替える。
うすうす感じてはいたが、それ以上に恐ろしい少女だったようだ。
ドアを開ける音もなければ、近づいた気配もなかった。
心底焦りながら振り返る。
見ればルーフェイア自身は、別にわざとではないらしい。
どういう育ちかたをしたのか、これが当たり前のようだ。
ただ少女の口から出たのは、それ以上に予想外の言葉だった。
「あ……もっと……」
「え?」
意味が飲み込めずに一瞬考え込む。
もっとと言うからには、何かをさらにと言うわけで、その「何か」が何かと言うと……。
自分でもよく分からない思考ルートを、それでも大急ぎで二周ほどして、ロアは結論にたどり着いた。
「こういうの、好きなんだ?」
さすがに怖いので、「何が」とは訊かない。
「えっと、あの、不正アクセス……ですよね?」
「うん」
そこまで分かっているならと、ロアはあっさり認める。
「やってたんだ?」
「いえ、初めて、見ました……」
これは意外だった。
基本的にこういうものは映像と違って、見てすぐ分かるものではない。
それなりの知識が要る。
なのに初めて見てそれに思い当たるとは、けっこうカンも鋭いようだ。
「それでよく分かったなぁ。
あ、そうそう、これナイショにしといてね」
ルーフェイアはそのあたりでほいほい喋るタイプではないが、いちおう釘を刺す。
学院では諜報活動教育の一環で、この手の不正侵入や防御も教えている。
だが実際にやっていいのは、任務や授業の中だけだ。
個人で勝手にやっているのを見つかったら、もちろん怒られる。
ただ腕に覚えのある学院生ともなると、監視を簡単にかいくぐってしまい、いたちごっこだ。
しかもそれが、ハイレベルな諜報員を生み出す要素のひとつにもなっているのだから、皮肉な話だった。
「さ、もう遅いし寝なくちゃね」
ロアは魔視鏡をオフにして立ち上がった。
自分ひとりならともかく、こんな遅くまで、まだ小さい後輩を起こしておくわけにはいかない。
だがいつも素直な後輩が、珍しく不満そうだ。
諦めきれないようすで、ロアの端末を見ている。
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