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第2話 抱えきれぬ想い
学院 Episode:06
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「夏季休業中で、正規授業はありませんからね。この時期は騒がしいのですよ」
あたしの思いを察したのか、学院長がそんな説明をしてくれた。
「あ、院長だ!」
あたしと同い年くらいの生徒たちが、集まってくる。
「うっわ、すげー美少女」
「なになに? 新入生?」
取り囲まれた。
「ねぇ、どこから来たの?」
「え、あ、えっと……」
初めてのことに戸惑ってると、学院長が助け舟を出してくれた。
「ほらほら、困っていますよ。彼女はルーフェイア、これから学内を案内するところです。
それよりあなたたち、そろそろ次の自主学習が始まる時間じゃありませんか?」
「あ、ほんとだ」
「やばっ!」
わっと彼らが駆け出して、急に廊下が静かになる。
どうやらこの学校は普通と違って、夏休みでも「自主」と称して、ある程度授業が行われてるみたいだった。
そんな中を、学院長と並んで歩いてく。
「こちらが正面玄関ですね。おや、来るときに通った? それは失礼しました。
この棟は、事務関係が集中しているんですよ」
窓の外を指差しながら、いくつもある棟を、院長が順番に教えてくれる。
「あちらに、建物が幾つも並んでいるのが分かりますか?
いちばん奥の二つは、左が低学年、右が中学年の校舎です。手前の少し低い建物は、高学年の校舎。
あなたはまだ低学年ですから、奥の左側ですね」
どれも似たようなデザインの建物だから、最初のうちは間違えそうだ。
「ちなみに管理棟のすぐ後ろが、講堂と図書館です。あと陰になって見えませんが、食堂と診療所がありますよ」
言いながら学院長が、廊下を曲がった。
講堂と図書館の間を抜けるとたしかに説明どおり、小さめの建物が二つ見えてくる。
ガラス張りのほうが食堂みたいだから、残りが診療所だろう。
その前で学院長が足を止める。
「ここからまっすぐ行った、校舎の手前が寮です。
入り口のところに受付がありますから、細かいことはそこで訊いてみてくださいね」
「はい」
それから学院長は、痛そうに手首を押さえながら、診療所に入っていった。
――何もないと、いいんだけど。
来た初日に学院長にケガをさせるなんて、きっとこの学校初だろう。
あとで結果が出たころに、もう一回謝りに行ったほうがいいかもしれない。
そんなことを考えながら寮へ行こうとして、あたしは思いなおした。
食堂のほうに足を向ける。
まだお昼には早いけど、暑い上に学院長の話をずいぶん聞いてたから、喉が乾いてた。
人の出入りもあるし、行けばなにかあるはずだ。そう思って食堂のドアに手をかける。
でもなんか、妙に騒がしい。
それに、この気配……。
食堂の中から感じる独特の気配は、精霊を召喚する時のやつだ。
――こんな狭いところで、呼び出すなんて。
常軌を逸してるってこのことだ。
あんな威力があるものを部屋のなかで呼び出したら、よくて巻き込まれて大ケガ、ヘタすれば建物ごと吹き飛ぶ。
ともかく止めたほうがいいと思って、あたしは建物の中へ急いだ。
あたしの思いを察したのか、学院長がそんな説明をしてくれた。
「あ、院長だ!」
あたしと同い年くらいの生徒たちが、集まってくる。
「うっわ、すげー美少女」
「なになに? 新入生?」
取り囲まれた。
「ねぇ、どこから来たの?」
「え、あ、えっと……」
初めてのことに戸惑ってると、学院長が助け舟を出してくれた。
「ほらほら、困っていますよ。彼女はルーフェイア、これから学内を案内するところです。
それよりあなたたち、そろそろ次の自主学習が始まる時間じゃありませんか?」
「あ、ほんとだ」
「やばっ!」
わっと彼らが駆け出して、急に廊下が静かになる。
どうやらこの学校は普通と違って、夏休みでも「自主」と称して、ある程度授業が行われてるみたいだった。
そんな中を、学院長と並んで歩いてく。
「こちらが正面玄関ですね。おや、来るときに通った? それは失礼しました。
この棟は、事務関係が集中しているんですよ」
窓の外を指差しながら、いくつもある棟を、院長が順番に教えてくれる。
「あちらに、建物が幾つも並んでいるのが分かりますか?
いちばん奥の二つは、左が低学年、右が中学年の校舎です。手前の少し低い建物は、高学年の校舎。
あなたはまだ低学年ですから、奥の左側ですね」
どれも似たようなデザインの建物だから、最初のうちは間違えそうだ。
「ちなみに管理棟のすぐ後ろが、講堂と図書館です。あと陰になって見えませんが、食堂と診療所がありますよ」
言いながら学院長が、廊下を曲がった。
講堂と図書館の間を抜けるとたしかに説明どおり、小さめの建物が二つ見えてくる。
ガラス張りのほうが食堂みたいだから、残りが診療所だろう。
その前で学院長が足を止める。
「ここからまっすぐ行った、校舎の手前が寮です。
入り口のところに受付がありますから、細かいことはそこで訊いてみてくださいね」
「はい」
それから学院長は、痛そうに手首を押さえながら、診療所に入っていった。
――何もないと、いいんだけど。
来た初日に学院長にケガをさせるなんて、きっとこの学校初だろう。
あとで結果が出たころに、もう一回謝りに行ったほうがいいかもしれない。
そんなことを考えながら寮へ行こうとして、あたしは思いなおした。
食堂のほうに足を向ける。
まだお昼には早いけど、暑い上に学院長の話をずいぶん聞いてたから、喉が乾いてた。
人の出入りもあるし、行けばなにかあるはずだ。そう思って食堂のドアに手をかける。
でもなんか、妙に騒がしい。
それに、この気配……。
食堂の中から感じる独特の気配は、精霊を召喚する時のやつだ。
――こんな狭いところで、呼び出すなんて。
常軌を逸してるってこのことだ。
あんな威力があるものを部屋のなかで呼び出したら、よくて巻き込まれて大ケガ、ヘタすれば建物ごと吹き飛ぶ。
ともかく止めたほうがいいと思って、あたしは建物の中へ急いだ。
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