19 / 743
第1話 憧憬
約束 Episode:04
しおりを挟む
「どうにか、なんねぇのかよ?」
俺の問いに、こいつは静かに首を振る。
そして微笑んだ。
「大丈夫、あたし慣れてるし……勉強もちゃんと、してるし……」
「ま、マジメ、なんだな」
俺なんざ勉強は、逃げられるだけ逃げてるってぇのに。
ルーフェイアのほうは俺の答えに不思議そうな顔になって、「勉強がいちばん楽しい」っつー、とんでもないこと言ってる。
「お前さ、少しダチと遊ぶとかなんとか、したほうがいいぞ?」
「ダチ……?」
なんか言葉、通じてねぇし。
「んと、友達。いるだろ?」
「ううん……。
あ、でも、兄さんとか隊員の人とか……ヒマなら相手、してくれるの」
「なんだよそれ――」
もう、ガッコどこの話じゃない。
要するにこいつはどっかの軍の中みてぇなとこで、ダチもなしにただ戦って……。
なんか腹が立った。
こいつから伝わってくるのは、悲しさばっかだ。なのに口と表情じゃ、平気な顔してる。
だからよけい、腹が立った。
「やめろよ」
「え?」
「そんな生活、やめちまえよ!」
自分でも、何で腹が立つかはわからない。けどどうにも許せなかった。
そんな俺を呆然と見るルーフェイアの瞳に、急に涙があふれる。
「ごめん……」
「え? あ、いや、泣くなよ。そのさ、お前に怒ったわけじゃ、ねぇから」
女子に泣かれたことなんかねぇから、めちゃくちゃ対処に困る。
けどよっぽどこたえちまったのか、どんだけ慰めてもこいつは泣きやまなかった。
「な、頼む、もう泣くなって」
「ごめんなさい!」
ずーっとこれの繰り返しだ。
結局俺は、泣きやむのを待つしかなかった。
ルーフェイアのやつを見ながら思う。
たぶんこいつは……今の生活が、気にいってるわけじゃないんだろう。でもなんでだか、それをやめようとは思ってない。
不思議だった。
それとも、なんか弱みみてぇなのがあって、どうにもならないのか。
「……だいじょぶか?」
少し収まってきたのを見て、訊いてみた。
さっきとちょこっとだけ、違う答えが返ってくる。
「ご、ごめんなさい……うん、だいじょうぶ……」
言いながらルーフェイアのやつが、涙をぬぐいながら顔を上げた。
あんだけ泣いてさすがにばつが悪りぃのか、俺のほうは見ないで時計に目をやる。
「あ、いけない……」
もっかい涙をぬぐって、こいつが立ち上がった。
「どした?」
「時間が……」
「へ?」
間抜けすぎる返事をしちまってから、思い出す。
「そいや、列車がどうとか言ってたっけな」
「うん」
ルーフェイアのやつがうなずいた。
「急がないと。
えっと、駅、どっち……?」
俺が街中引きずり回しちまったから、現在位置がわかんなくなったらしい。
「こっちだ」
この町だったら俺のほうが断然土地カンがあるから、言葉と一緒に走り出した。
ルーフェイアも走り出す。
俺の問いに、こいつは静かに首を振る。
そして微笑んだ。
「大丈夫、あたし慣れてるし……勉強もちゃんと、してるし……」
「ま、マジメ、なんだな」
俺なんざ勉強は、逃げられるだけ逃げてるってぇのに。
ルーフェイアのほうは俺の答えに不思議そうな顔になって、「勉強がいちばん楽しい」っつー、とんでもないこと言ってる。
「お前さ、少しダチと遊ぶとかなんとか、したほうがいいぞ?」
「ダチ……?」
なんか言葉、通じてねぇし。
「んと、友達。いるだろ?」
「ううん……。
あ、でも、兄さんとか隊員の人とか……ヒマなら相手、してくれるの」
「なんだよそれ――」
もう、ガッコどこの話じゃない。
要するにこいつはどっかの軍の中みてぇなとこで、ダチもなしにただ戦って……。
なんか腹が立った。
こいつから伝わってくるのは、悲しさばっかだ。なのに口と表情じゃ、平気な顔してる。
だからよけい、腹が立った。
「やめろよ」
「え?」
「そんな生活、やめちまえよ!」
自分でも、何で腹が立つかはわからない。けどどうにも許せなかった。
そんな俺を呆然と見るルーフェイアの瞳に、急に涙があふれる。
「ごめん……」
「え? あ、いや、泣くなよ。そのさ、お前に怒ったわけじゃ、ねぇから」
女子に泣かれたことなんかねぇから、めちゃくちゃ対処に困る。
けどよっぽどこたえちまったのか、どんだけ慰めてもこいつは泣きやまなかった。
「な、頼む、もう泣くなって」
「ごめんなさい!」
ずーっとこれの繰り返しだ。
結局俺は、泣きやむのを待つしかなかった。
ルーフェイアのやつを見ながら思う。
たぶんこいつは……今の生活が、気にいってるわけじゃないんだろう。でもなんでだか、それをやめようとは思ってない。
不思議だった。
それとも、なんか弱みみてぇなのがあって、どうにもならないのか。
「……だいじょぶか?」
少し収まってきたのを見て、訊いてみた。
さっきとちょこっとだけ、違う答えが返ってくる。
「ご、ごめんなさい……うん、だいじょうぶ……」
言いながらルーフェイアのやつが、涙をぬぐいながら顔を上げた。
あんだけ泣いてさすがにばつが悪りぃのか、俺のほうは見ないで時計に目をやる。
「あ、いけない……」
もっかい涙をぬぐって、こいつが立ち上がった。
「どした?」
「時間が……」
「へ?」
間抜けすぎる返事をしちまってから、思い出す。
「そいや、列車がどうとか言ってたっけな」
「うん」
ルーフェイアのやつがうなずいた。
「急がないと。
えっと、駅、どっち……?」
俺が街中引きずり回しちまったから、現在位置がわかんなくなったらしい。
「こっちだ」
この町だったら俺のほうが断然土地カンがあるから、言葉と一緒に走り出した。
ルーフェイアも走り出す。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる