17 / 743
第1話 憧憬
約束 Episode:02
しおりを挟む
「どした?」
「あ、ううん、なんでもない……」
口じゃそう言ってるけど、伝わってくるのは涙だ。
――それも、こっちまで悲しくなっちまうような。
そのまま俺らは沈黙した。
木の葉がざわめく音と、水の流れる音とが吹きぬける。
そのうち耐えきんなくなったんだろう、こいつが取ってつけたふうにつぶやいた。
「精霊、回収しなくちゃ……」
「そいや、そだっけな」
話に乗ってやる。
「えーと、どうすりゃいい?」
「えっと……そのまま動かないで、くれる……?」
言いながらこいつが水から上がった。
んでそれから、どっからかタオル出して足拭いて、靴下とブーツ履いて……。
「おーい、早くしてくれって」
「ご、ごめん!」
慌てたら今度は、足もつれてやがるし。
「落ち着けって」
「う、うん」
結局、仕切り直してもっかいになった。
「ごめんね、ほんとに今度は……動かないでね」
「分かってるって」
なんでも強制憑依ってのは、合わねぇ形のとこに無理矢理押し込むようなもんらしい。
だから外す時は、引っ張り出す(?)のが大変だって話だった。
こいつがなんかしてるんだろう。ずーっと続いてた違和感が強くなる。
――マジで気持ち悪りぃぞ?
しかもルーフェイアのやつもなんだか、苦労してるみてぇだった。
「おい、だいじょぶなのか?」
「たぶん……」
コワいこと言うし。
「もうちょっと……待って。なんだかしっかり、くっついちゃってて……」
「そゆもんなのか?」
岩場に貼っついてる貝みてぇな言い方だ。
「あたしもこんなの、初めて……あ、戻ってきそう」
それからまた少し騒いで、ようやく精霊が取れた。妙な感じも同時に収まる。
「ごめんね、その……大丈夫?」
「ぜんぜんなんでもねぇぞ?」
答えに、こいつがほっとした表情になった。
「んでよ、それ、精霊か?」
「うん」
ルーフェイアの手の上に二つ、水晶の塊みたいなのがある。
ひとつは碧っぽい色で、もひとつは妙にきらきらした感じだ。
「なんか、いっぱい持ってんだな」
「母さんの……借りたの」
「ンな簡単に、貸せるもんなのか?」
学院の先輩たちなんざ、ほとんど見せてもくれねぇのに。
ルーフェイアのほうは、俺のつぶやきは聞いてなかったらしかった。
公園の中をひととおり、眺め渡してる。
そして、言った。
「いいよね。こういう……平和なの」
「あ、あぁ……?」
なんか不思議な言葉だった。
誰でも言う。この言葉は。それに実際ここは、どう見たって平和だ。
けどこいつが言うと、この言葉はなぜか重かった。
そしてまた、沈黙。
と、流れる風に押されたみたいに、ふわりとこいつが顔を巡らした。
「あ、ううん、なんでもない……」
口じゃそう言ってるけど、伝わってくるのは涙だ。
――それも、こっちまで悲しくなっちまうような。
そのまま俺らは沈黙した。
木の葉がざわめく音と、水の流れる音とが吹きぬける。
そのうち耐えきんなくなったんだろう、こいつが取ってつけたふうにつぶやいた。
「精霊、回収しなくちゃ……」
「そいや、そだっけな」
話に乗ってやる。
「えーと、どうすりゃいい?」
「えっと……そのまま動かないで、くれる……?」
言いながらこいつが水から上がった。
んでそれから、どっからかタオル出して足拭いて、靴下とブーツ履いて……。
「おーい、早くしてくれって」
「ご、ごめん!」
慌てたら今度は、足もつれてやがるし。
「落ち着けって」
「う、うん」
結局、仕切り直してもっかいになった。
「ごめんね、ほんとに今度は……動かないでね」
「分かってるって」
なんでも強制憑依ってのは、合わねぇ形のとこに無理矢理押し込むようなもんらしい。
だから外す時は、引っ張り出す(?)のが大変だって話だった。
こいつがなんかしてるんだろう。ずーっと続いてた違和感が強くなる。
――マジで気持ち悪りぃぞ?
しかもルーフェイアのやつもなんだか、苦労してるみてぇだった。
「おい、だいじょぶなのか?」
「たぶん……」
コワいこと言うし。
「もうちょっと……待って。なんだかしっかり、くっついちゃってて……」
「そゆもんなのか?」
岩場に貼っついてる貝みてぇな言い方だ。
「あたしもこんなの、初めて……あ、戻ってきそう」
それからまた少し騒いで、ようやく精霊が取れた。妙な感じも同時に収まる。
「ごめんね、その……大丈夫?」
「ぜんぜんなんでもねぇぞ?」
答えに、こいつがほっとした表情になった。
「んでよ、それ、精霊か?」
「うん」
ルーフェイアの手の上に二つ、水晶の塊みたいなのがある。
ひとつは碧っぽい色で、もひとつは妙にきらきらした感じだ。
「なんか、いっぱい持ってんだな」
「母さんの……借りたの」
「ンな簡単に、貸せるもんなのか?」
学院の先輩たちなんざ、ほとんど見せてもくれねぇのに。
ルーフェイアのほうは、俺のつぶやきは聞いてなかったらしかった。
公園の中をひととおり、眺め渡してる。
そして、言った。
「いいよね。こういう……平和なの」
「あ、あぁ……?」
なんか不思議な言葉だった。
誰でも言う。この言葉は。それに実際ここは、どう見たって平和だ。
けどこいつが言うと、この言葉はなぜか重かった。
そしてまた、沈黙。
と、流れる風に押されたみたいに、ふわりとこいつが顔を巡らした。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
【完結】あなたの思い違いではありませんの?
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
複数の物語の登場人物が、一つの世界に混在しているなんて?!
「カレンデュラ・デルフィニューム! 貴様との婚約を破棄する」
お決まりの婚約破棄を叫ぶ王太子ローランドは、その晩、ただの王子に降格された。聖女ビオラの腰を抱き寄せるが、彼女は隙を見て逃げ出す。
婚約者ではないカレンデュラに一刀両断され、ローランド王子はうろたえた。近くにいたご令嬢に「お前か」と叫ぶも人違い、目立つ赤いドレスのご令嬢に絡むも、またもや否定される。呆れ返る周囲の貴族の冷たい視線の中で、当事者四人はお互いを認識した。
転生組と転移組、四人はそれぞれに前世の知識を持っている。全員が違う物語の世界だと思い込んだリクニス国の命運はいかに?!
ハッピーエンド確定、すれ違いと勘違い、複数の物語が交錯する。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/19……完結
2024/08/13……エブリスタ ファンタジー 1位
2024/08/13……アルファポリス 女性向けHOT 36位
2024/08/12……連載開始
〈本編完結〉ふざけんな!と最後まで読まずに投げ捨てた小説の世界に転生してしまった〜旦那様、あなたは私の夫ではありません
詩海猫
ファンタジー
こちらはリハビリ兼ねた思いつき短編として出来るだけ端折って早々に完結予定でしたが、予想外に多くの方に読んでいただき、書いてるうちにエピソードも増えてしまった為長編に変更致しましたm(_ _)m
ヒロ回だけだと煮詰まってしまう事もあるので、気軽に突っ込みつつ楽しんでいただけたら嬉しいです💦
*主人公視点完結致しました。
*他者視点準備中です。
*思いがけず沢山の感想をいただき、返信が滞っております。随時させていただく予定ですが、返信のしようがないコメント/ご指摘等にはお礼のみとさせていただきます。
*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*
顔をあげると、目の前にラピスラズリの髪の色と瞳をした白人男性がいた。
周囲を見まわせばここは教会のようで、大勢の人間がこちらに注目している。
見たくなかったけど自分の手にはブーケがあるし、着ているものはウエディングドレスっぽい。
脳内??が多過ぎて固まって動かない私に美形が語りかける。
「マリーローズ?」
そう呼ばれた途端、一気に脳内に情報が拡散した。
目の前の男は王女の護衛騎士、基本既婚者でまとめられている護衛騎士に、なぜ彼が入っていたかと言うと以前王女が誘拐された時、救出したのが彼だったから。
だが、外国の王族との縁談の話が上がった時に独身のしかも若い騎士がついているのはまずいと言う話になり、王命で婚約者となったのが伯爵家のマリーローズである___思い出した。
日本で私は社畜だった。
暗黒な日々の中、私の唯一の楽しみだったのは、ロマンス小説。
あらかた読み尽くしたところで、友達から勧められたのがこの『ロゼの幸福』。
「ふざけんな___!!!」
と最後まで読むことなく投げ出した、私が前世の人生最後に読んだ小説の中に、私は転生してしまった。
愛はないですが、地の果てからも駆けつけることになりました ~崖っぷち人質姫の日常~
菱沼あゆ
ファンタジー
遠縁に当たるバージニア姫とともに大国に花嫁として送られたアイリーン。
現王家の姫ではないので、扱いが悪く。
およそ、王様が尋ねてきそうにない崖の上の城に住むように言われるが。
狩りの帰りの王様がたまたま訪れ。
なにもなかったのに、王様のお手がついたのと同じ扱いを受けることに。
「今後、アイリーン様に課せられるお仕事はひとつだけ。
いつ王様がいらしても、ちゃんと城でお出迎えされることです。
あとは、今まで通りご自由に」
簡単でしょう?
という感じに言われるが。
いえいえ。
諸事情により、それ、私にはかんたんじゃないんですよっ!
寝ると死んでしまうアイリーンと近隣の国々を侵略しつづける王様の物語。
(「小説家になろう」でも掲載しています。)
聖女なので公爵子息と結婚しました。でも彼には好きな人がいるそうです。
MIRICO
恋愛
癒しの力を持つ聖女、エヴリーヌ。彼女は聖女の嫁ぎ制度により、公爵子息であるカリス・ヴォルテールに嫁ぐことになった。しかしカリスは、ブラシェーロ公爵子息に嫁ぐ聖女、アティを愛していたのだ。
カリスはエヴリーヌに二年後の離婚を願う。王の命令で結婚することになったが、愛する人がいるためエヴリーヌを幸せにできないからだ。
勝手に決められた結婚なのに、二年で離婚!?
アティを愛していても、他の公爵子息の妻となったアティと結婚するわけにもいかない。離婚した後は独身のまま、後継者も親戚の子に渡すことを辞さない。そんなカリスの切実な純情の前に、エヴリーヌは二年後の離婚を承諾した。
なんてやつ。そうは思ったけれど、カリスは心優しく、二年後の離婚が決まってもエヴリーヌを蔑ろにしない、誠実な男だった。
やめて、優しくしないで。私が好きになっちゃうから!!
ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。誤字もお知らせくださりありがとうございます。修正します。ご感想お返事ネタバレになりそうなので控えさせていただきます。
異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い
八神 凪
ファンタジー
旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い
【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】
高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。
満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。
彼女も居ないごく普通の男である。
そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。
繁華街へ繰り出す陸。
まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。
陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。
まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。
魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。
次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。
「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。
困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。
元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。
なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。
『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』
そう言い放つと城から追い出そうとする姫。
そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。
残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。
「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」
陸はしがないただのサラリーマン。
しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。
今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――
みそっかすちびっ子転生王女は死にたくない!
沢野 りお
ファンタジー
【書籍化します!】2022年12月下旬にレジーナブックス様から刊行されることになりました!
定番の転生しました、前世アラサー女子です。
前世の記憶が戻ったのは、7歳のとき。
・・・なんか、病的に痩せていて体力ナシでみすぼらしいんだけど・・・、え?王女なの?これで?
どうやら亡くなった母の身分が低かったため、血の繋がった家族からは存在を無視された、みそっかすの王女が私。
しかも、使用人から虐げられていじめられている?お世話も満足にされずに、衰弱死寸前?
ええーっ!
まだ7歳の体では自立するのも無理だし、ぐぬぬぬ。
しっかーし、奴隷の亜人と手を組んで、こんなクソ王宮や国なんか出て行ってやる!
家出ならぬ、王宮出を企てる間に、なにやら王位継承を巡ってキナ臭い感じが・・・。
えっ?私には関係ないんだから巻き込まないでよ!ちょっと、王族暗殺?継承争い勃発?亜人奴隷解放運動?
そんなの知らなーい!
みそっかすちびっ子転生王女の私が、城出・出国して、安全な地でチート能力を駆使して、ワハハハハな生活を手に入れる、そんな立身出世のお話でぇーす!
え?違う?
とりあえず、家族になった亜人たちと、あっちのトラブル、こっちの騒動に巻き込まれながら、旅をしていきます。
R15は保険です。
更新は不定期です。
「みそっかすちびっ子王女の転生冒険ものがたり」を改訂、再up。
2021/8/21 改めて投稿し直しました。
おかえりなさい、シンデレラ(改訂版)
daisysacky
ファンタジー
現代の日本にやってきたエラは…元の世界に戻る機会があったものの…新たな暮らしを始めます。
そうして新たに、魔法使いが来て、次のチャンスは~
と言い出しますが…
さて!2人の少女の運命は?
序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた
砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。
彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。
そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。
死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。
その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。
しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、
主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。
自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、
寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。
結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、
自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……?
更新は昼頃になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる