3 / 743
第1話 憧憬
街角 Episode:03
しおりを挟む
◇Imad
「そんなに泣くほど――何困ってんだ?」
なるべくキツくならない調子で言ったのに、またこの子が泣き出しちまった。
「あ、いやその、悪りぃ。だからさ、なんか困ってるみたいだったから……」
「ごめんなさい!」
俺が謝ったはずなのに、なんかこいつが謝ってまた泣いちまうし。
ただ、俺以上にこの子のほうが戸惑ってるのが分かった。
しょうがねぇから少し待って、また声をかけてみる。
「どこ行きたいんだ?」
近づいてみるとこの子は俺より頭ひとつちっこくて、二つか三つ年下って感じだった。
――けどそれにしちゃ、妙にしっかりしてるよな?
年齢が下になるほど伝わってくるものは漠然としてることが多いけど、この子の場合は年の割に、筋道だった考え方をしてる。
まぁこんなのあくまでも目安だから、アテにはできねぇけど……。
「そのメモが行き先か?」
「え? あ、はい」
そう答えて、この子があっさり俺にメモを差し出した。
――前言撤回。
しっかりしてると思ったのは、俺の思い違いってやつだったらしい。
困った顔で俺を上目遣いに見上げる様子ときたら、どう見たって迷子になったチビだ。
可愛いけど。
瞳の碧がすげーきれいだし。
「多分……この近くだと、思うんですけど……」
「えーと、ちょっと待てよ――って、何語だ、これ?」
俺、普通に使われてる言葉なら、ほとんど読めるんだけどな……?
けどここに書かれてる言葉ときたら、アヴァン語どころかロデスティオ語でもねぇし、ワサール語とも違う。
で、俺が悩んでたら、この子がまた泣きそうになりながら説明した。
「ご、ごめんなさい!
あの、ここに書いてある……バディエンの店っていう、改造屋さんなんです」
「あ、なんだ。その店か」
相変わらず字は読めねぇけど、その店なら知ってる。
この町じゃ腕がいいので有名な改造屋で、しかも店主は叔父さんの友達だから、知らないわけがない。
もっともこの店、初めて行こうとした人間が必ず迷うのでも有名だった。
「あそこ、分かりづらいからな。
えーとここからだと、まずこの通りをこのまま向こうへ行って……」
「え? それじゃここから……離れちゃうんじゃ……?」
「入り口がこの辺にないんだよ。んであそこの十字路を右へ曲がって三つ目の右手の路地を入って、今度は四つめで左、それから二つめを右へ行ってすぐもう一回右で……」
「――え? え?」
案の定、こいつも混乱した。
気持ちはわかる。
俺だってこの街を知んなかったら、この説明じゃ絶対わかんねぇだろう。
けどマジであそこ、これ以外に説明のしようがない。
「そんなに泣くほど――何困ってんだ?」
なるべくキツくならない調子で言ったのに、またこの子が泣き出しちまった。
「あ、いやその、悪りぃ。だからさ、なんか困ってるみたいだったから……」
「ごめんなさい!」
俺が謝ったはずなのに、なんかこいつが謝ってまた泣いちまうし。
ただ、俺以上にこの子のほうが戸惑ってるのが分かった。
しょうがねぇから少し待って、また声をかけてみる。
「どこ行きたいんだ?」
近づいてみるとこの子は俺より頭ひとつちっこくて、二つか三つ年下って感じだった。
――けどそれにしちゃ、妙にしっかりしてるよな?
年齢が下になるほど伝わってくるものは漠然としてることが多いけど、この子の場合は年の割に、筋道だった考え方をしてる。
まぁこんなのあくまでも目安だから、アテにはできねぇけど……。
「そのメモが行き先か?」
「え? あ、はい」
そう答えて、この子があっさり俺にメモを差し出した。
――前言撤回。
しっかりしてると思ったのは、俺の思い違いってやつだったらしい。
困った顔で俺を上目遣いに見上げる様子ときたら、どう見たって迷子になったチビだ。
可愛いけど。
瞳の碧がすげーきれいだし。
「多分……この近くだと、思うんですけど……」
「えーと、ちょっと待てよ――って、何語だ、これ?」
俺、普通に使われてる言葉なら、ほとんど読めるんだけどな……?
けどここに書かれてる言葉ときたら、アヴァン語どころかロデスティオ語でもねぇし、ワサール語とも違う。
で、俺が悩んでたら、この子がまた泣きそうになりながら説明した。
「ご、ごめんなさい!
あの、ここに書いてある……バディエンの店っていう、改造屋さんなんです」
「あ、なんだ。その店か」
相変わらず字は読めねぇけど、その店なら知ってる。
この町じゃ腕がいいので有名な改造屋で、しかも店主は叔父さんの友達だから、知らないわけがない。
もっともこの店、初めて行こうとした人間が必ず迷うのでも有名だった。
「あそこ、分かりづらいからな。
えーとここからだと、まずこの通りをこのまま向こうへ行って……」
「え? それじゃここから……離れちゃうんじゃ……?」
「入り口がこの辺にないんだよ。んであそこの十字路を右へ曲がって三つ目の右手の路地を入って、今度は四つめで左、それから二つめを右へ行ってすぐもう一回右で……」
「――え? え?」
案の定、こいつも混乱した。
気持ちはわかる。
俺だってこの街を知んなかったら、この説明じゃ絶対わかんねぇだろう。
けどマジであそこ、これ以外に説明のしようがない。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
異世界転生でチートを授かった俺、最弱劣等職なのに実は最強だけど目立ちたくないのでまったりスローライフをめざす ~奴隷を買って魔法学(以下略)
朝食ダンゴ
ファンタジー
不慮の事故(死神の手違い)で命を落としてしまった日本人・御厨 蓮(みくりや れん)は、間違えて死んでしまったお詫びにチートスキルを与えられ、ロートス・アルバレスとして異世界に転生する。
「目立つとろくなことがない。絶対に目立たず生きていくぞ」
生前、目立っていたことで死神に間違えられ死ぬことになってしまった経験から、異世界では決して目立たないことを決意するロートス。
十三歳の誕生日に行われた「鑑定の儀」で、クソスキルを与えられたロートスは、最弱劣等職「無職」となる。
そうなると、両親に将来を心配され、半ば強制的に魔法学園へ入学させられてしまう。
魔法学園のある王都ブランドンに向かう途中で、捨て売りされていた奴隷少女サラを購入したロートスは、とにかく目立たない平穏な学園生活を願うのだった……。
※『小説家になろう』でも掲載しています。
臆病者の転生ヒストリア〜神から授かった力を使うには時間が必要です〜
たいらくん
ファンタジー
サッカー選手として将来を期待された須藤弘樹が大怪我で選手生命を絶たれた。その後様々な不幸が続き、お決まりの交通事故死で暗闇に包まれた...
はずなんだが、六歳児に転生。
しかも貴族っぽい。アレクサンダー帝国の王位後継者第三位のスノウ皇子!
もちろん王子あるあるな陰謀にまき込まれ誘拐されてしまうが、そこで出会った少女が気になる。
しかしそんな誘拐事件後は離れ離れとなり、あれよあれよと事態は進みいつのまにやら近隣国のマクウィリアズ王国に亡命。
新しい人生として平民クライヴ(スノウ)となり王都にある王立学院に入学なのだが! ハーフエルフの女の子、少し腹黒な男の娘、◯塚風のボクっ娘、訛りの強い少年等と個性的な仲間との出会いが待っていた。
帝国にいた時には考えられない程の幸せな学院生活を送る中でも、クライヴは帝国で出会った本名も知らない彼女の事が気になっていた。実は王都内で出会っている事すらお互い気づかずに...
そんな中いつしか事件に巻き込まれていくが、仲間達と共に助け合いながら様々な出来事を解決して行く臆病な少年が、大人になるにつれて少しずつ成長する王道ストーリー。
いつしか彼女と付き合えるような立派な男になる為に!
【小説家になろう、カクヨムにも投稿してます】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる