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17話 ダン様と食事の後に

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 ダン様とのお食事は美味しかったですわ!
 楽しかった?と聞かれると微妙ですが······。

 ダン様はほとんどしゃべる事はなく、私が学校の事だったり、出されたメニューの味付けに感動して、「私も作れたら!」とか、私しかおしゃべりをしてなかったように思う。ダン様は私の言葉に相づちを打ったり「そうか·····。」くらいしか言葉を発しなかった気がする。

 ああ、やっぱり私と居ても退屈させてるかも·····と思ったけれど、目付きは優しい感じがしたし、口元も笑っている感じがした。
 それに、いつもみたいに自身が纏っている重い雰囲気が柔らかくなっていた。
 だから、それなりにダン様も楽しいんでいたのではないかと思う。

 連れて行ってくれたお店は、かなり高級そうな所だった。お店の床の一面は赤い絨毯でまとめられ、シャンデリアも王宮並みに豪華だった。席まで案内してくれたのは、ダン様の姿を見た途端に飛ぶようにして来たお店の支配人。
 案内されその席まで歩いている間に、私だけなら一生このお店には入店できないだろうから、目に焼き付けようと周りをキョロキョロしていたら、入っているお客様も、何人かは知っている公爵様や伯爵様がいらっしゃった。

 その内の何人かは、ダン様に挨拶をしに来たが、ダン様はそれを片手で制止して誰とも会話することもなくそのまま止まらずに席へと向かった。
 挨拶をさせて貰えなかった方々は肩を落として自分の席へ戻って行った。

 そこは他の席とは違い、フロアが別のようで、個室みたいにカーテンで仕切られるようになっていた。
 そのフロアには五つくらい個室があり、二つくらい使われているのかカーテンが引いてあった。

 そんな所でお食事······初めは緊張していたが豪華な料理を見ると、その緊張もほぐれて少し浮かれた気持ちで食べていたのは仕方がないことだと思う。

 料理を持ってきてくれた店員さんは男女問わず、ダン様を見て頬を染めていたのは見逃しませんでした!
 ダン様は定員さんがくる度に眉間にシワを寄せていた。そして支配人を呼ぶように言い、支配人が来たら

「普通は一テーブルに一人で対応をするはずだが、料理を運んでくる者が皆違うのは何故か?」

 と聞いたいた。支配人は焦ったように平謝りをして、すぐに対応します!と去って行った。

 そうなのか·····普通はそうなんですね!勉強になりました!

 それからは支配人が料理を運んでくるようになった。

 そして、楽しいお食事も終わりダン様は馬車で家まで送ってくださいました。
 私は美味しい料理を食べて気分が上昇!熱を冷ます為に、ダン様に小窓を開けることに承諾をもらい夜風に当たっていた。

「気持ちいい~!」

 うん!少し冷たい風が気持ち良かったが、なかなか熱が冷めることはなかった。

 だって、窓越しにダン様がこちらをじっと見つめているのがわかったから!·····どうすればいいのかと、ソワソワしながら家に着くまで外の闇を見ていた。

 家に着くと、ダン様は従者がドアを開ける前に、ドア開け馬車から降りて、私にサッと手を差しのべた。
 どうやら私をエスコートするために早く馬車から降りたらしい。
 なんて優しい人なんでしょう!
 普通なら公爵位くらいになると、よほどのことがない限り馬車でのエスコートは従者の役目なのに!

 私はダン様が差しのべた手にそっと自分の手を置きエスコートされた。

 ふふふ。きっとマリアに言うと羨ましがられるわね!

 私は馬車から降りてお礼を言った。

「ダン様!今日はありがとうございました!とても美味しかったです!お礼のつもりが全然お礼になってませんでしたね······。」

「いや·····私も君といて楽しかった。」

 え?楽しかった?
 会話という、会話はしていませんでしたが良かったです。

「そ、そうですか?私もです!では失礼します!」

 私はお辞儀をして去ろうとしたが、ダン様に急にガシッと腕を掴まれて、私の身体はダン様の胸の中へ引き込まれていった。

 私はダン様に抱きしめられている状態になり、急展開に固まってしまった。

 ダン様の胸からドクドクドクというちょっと鼓動が早い心臓の音が聞こえる。

 あ····ダンスの時より早い音だわ·····。

 などと思っていたら、顎を持たれ顔をクイッと上げられた。

 ダン様は····なんと言いますか、熱い眼差しといいますが、目に熱をはらんでまして······

「ミチルダ·····」

 ダン様は私の名前を呼び、目を閉じて顔を近づけてきた·······



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「キャー!キャー!!キスね!キスをしたのね!」

 マリアは頬に両手を当てて、顔を真っ赤にして叫んでいる。

 今は学校のお昼休み。食事も終わり、いつもの中庭でベンチに座り先日の出来事をマリアに話をしていた。

「キス?」

私は何の事?という感じて言った。

「は?」

マリアも何?てな感じの返事。マリアは勘違いしているようなので訂正する。

「キスはしてないわよ。」

「は?え?」


 ■■■■■■■■■■■■■■■■■

 あ····何かダン様の顔が近づいてる。

 そう思った時

「おっ·····」

「あっ!」

 自分の声と同時に別の声が聞こえたが、私は構わず続けた。

 ダン様も私のいきなりの声にびっくりして、顔と顔がくっつくまで、あと二センチくらいの所で止まって目を見開いている。

「ダンさま!何故顔を近づけてくるか分かりましたわ!ダン様の左の目じりに睫毛が!」

 そう、ダン様の長くてきれいな銀色をした睫毛が目じりに突き刺さって(いるように見えた)いたのだ。
 きっと、ダン様は痛くて私に取って欲しかったのね!
 私は丁寧にそれを指ですくい取った。
 その睫毛を、ほら!!とダン様に見せる。
 ダン様はそれを見て固まっていたが

「あ····ありがとう····。」

 と呆然としながらでもお礼を言ってくれた。
 私はそれを見て、「違ったのかしら?」と思ったが、もう一度お辞儀とお礼を述べて

「気をつけてお帰りくださいね!」

 と言って後ろを振り向いたら、そこには片手を上げ、いかにもこちらに向かってきていたであろうの姿で固まっているケージーお兄様が見えた。

 さっき同時に聞こえた「おっ!」はケージーお兄様だったようだ。

 私はケージーお兄様の所に駆け寄って行き

「どうかなさいました?」

 と聞いたら、思い出したかのように動きだし、「なんでもない」と言った。

 私は笑顔で

「帰りました!お食事はとても美味しかったです!」
 と言って自分の部屋へと向かった。

 ケージーお兄様は、脱力したような感じて一言を言った。

「ああ·····良かったな」



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「と、いうことなのよ!だからキスではなくて、睫毛の·····」

 私が続きを説明すると

「ばっかもーん!」

 とマリアに罵られました。
 何故ですのー!?

 それからはお昼休みが終わるまでマリアのお説教が始まった。

「絶対にダン様は貴女ことが好きなのよ!」

 ·····そうでしょうか?

 言われてませんけど。

「態度で分かるでしょ!」

 ええー?

 どこの態度でしょう?

 そんなやり取りをしていたら突然後ろから声をかけられた。

「ちょっとよろしいかしら?」

 振り向くと、2つ上の上級生のマランヌーベ公爵のご令嬢のヴィアインと数人のご令嬢が立っていた。

「これはヴィアイン様。何でしょうか?」

 先に反応したのはマリアだった。マリアはベンチから立ち上がりスカートのを摘まんでお辞儀をした。
 私も慌てて立ち上がり同じように、スカートを摘まんでお辞儀をした。

わたくしが用があるのは、そちらの顔が平凡な方よ。」

 ヴィアイン様は私の方を向いて言ってきた。

「私ですか?」

「そうよ。貴女よ。」

 ヴィアイン様はじろじろと上から下まで見てくる。
 そしてキッと睨んでくる。

「貴女····昨日、アンドリエ公爵様とご一緒にベラジューレにいた方よね?」

「····はい····そうですが。」

 あのお店に居られたのかしら·····。

 ベラジューレとは昨日、ダン様に食事に連れて行ってもらったお店の名前だ。

「まあ!やっぱり!あの凛々しいアンドリエ公爵様の横に貧相な子がいると思ってみたら、見たことある子だと思ったのよ!」

 ヴィアイン様の隣に栗色の髪の毛で綺麗に巻き毛をしたご令嬢が、怒ったように言った。

 どうやら昨日の場面を見ていたのはヴィアイン様ではなく、こちらの方のようです。

 どなたでしょうか·····。

 何分、貴族としての付き合いはほぼしていないので、同級生や有名な貴族ならともかく、他の貴族の名前とかは知らない方が多いのだ。

 私が頭を悩ませていると、マリアがすかさず助け船を出す。

「メイナー伯爵のご令嬢よ。」

 耳打ちで教えてくれた。

 メイナー伯爵ね!知らないわ!

「何故、アンドリエ公爵様とご一緒だったのかしら?」

 ヴィアインはミチルダを睨んだまま視線を外さない。

「そうよ!誰の許可を得てアンドリエ公爵様とご一緒にお食事をなさってるの!」

 メイナー伯爵ご令嬢は、何故か勝ち誇ったように言う。

「許可?ダン様とご一緒するのに誰かの許可が必要なんですか?」

 私は疑問に思い聞いた。

 するとメイナー伯爵ご令嬢は、そんなことも知らないの?とでも言うように説明をした。

「こちらのマランヌーベ公爵のご令嬢のヴィアイン様はアンドリエ公爵様の有力な婚約者ですわ!勿論正妻ですわ!そのヴィアイン様の許可も得ずに、アンドリエ公爵様に近づくなんて大それたことをするなんて失礼じゃないの!」

「まだなのにわざわざ許可がいるんですか?」

 マリアは呆れたように聞いた。

 ヴィアイン様はその言葉にカチンときたらしく、今度はマリアを睨み付け言った。

「まだ、候補の中の一人ですが、ほぼわたくしに決まっているの。ですから、貴女みたいな平凡で何も持っていない男爵ご令嬢ごときが、もうアンドリエ公爵様には近づかないでほしいの。」

「はあ。」

 何かすごいことを言われているようですが、ダン様に婚約者がいるとは初耳です。
 ケージーお兄様からは女たらしで、女にだらしないやつ!とは聞いてはいましたが。

 本当にそうなら申し訳ないことをしてしまいました。

 これは謝なければ!
 と思い口を開き掛けたら、マリアが私を庇うように立った。

「ヴィアイン様、一つお聞きしたいことがあります。」

「なら何かしら。確か貴女は·····」

「マージュリー伯爵の娘のマリアですわ。」

「ああ、そうそう、お家柄はマージュリー伯爵でしたわね。そのマージュリー伯爵のマリアさんは何を聞きたいのかしら?」

「では言わせていただきます。ミチルダは確かに男爵の娘ですが、勿論、アンドリエ公爵様の婚約者候様が、ただの男爵の娘でないのご存じですよね?」

「え?どういうことかしら?」

「ご存じない?ミチルダは、英雄の一人の妹なんですよ?」

 ヴィアイン様は、ハッとした顔になり、若干顔色が悪くなった。

「その方はルカーサー男爵の·····」

「そうですわ。英雄の一人のケージー・ハン・ルカーサー様ですわ。ミチルダはそのケージー様の妹ですの。ですから友達の妹であるミチルダは一緒にいてもおかしくないと思いますし、わざわざ、たかが婚約者候補の方に許可を得なくてもいいと思いますわ。おっと、たかがとは口が過ぎたたねわ。オーホッホッ!」

 何故か高笑いをするマリア。

「ちょっと貴女、失礼じゃない!」
「そうよ!公爵様のご令嬢に向かってその口の聞き方は不敬罪になるわよ!」

「あら、それはごめんなさい。それに、ミチルダだってアンドリエ公爵様の正妻になれるかもしれませんよ?」

 挑戦的な目で三人を見つめるマリア。

 その言葉にはヴィアインが反論する。

「それはあり得ないわ。身分が違い過ぎるわね。良くても愛妾だわ。」

「確かに普通ならそうかもしれませんが、ミチルダの兄は英雄ですわ。英雄の妹なら男爵という身分に関係なく正妻になってもおかしく有りませんわ。」

「!!!」

 ヴィアイン様は唇をワナワナと震えさせている。
 そして私を視線で殺すような目で見る。

「英雄の妹だろうが身分が違い過ぎるわ!英雄の妹ってだけで男爵家の身分ではアンドリエ家に利益ももたらさない!それに誰も納得もしないわ!いいこと!アンドリエ公爵様には近づかないで!」

 ヴィアイン様は言うことだけ言って去って行った。

 私はヴィアイン様達が見えなくなったらため息をついた。

「マリア、いい過ぎよ?ヴィアイン様の言っていることは正しいわ。」

「いいえ!間違ったことは言っていないわ!それにミチルダの方がおっぱいが大きいし!」

 え?それは関係ないのでは?

「それに料理は美味しいし、一緒に居て癒されるし!おっぱいが大きいし!」

 癒されるはともかく、その前後の言葉は関係ないと思います!

 しかも、おっぱいが大きいを連呼するのもどうかと思います!私にはおっぱいしかないみたいな言い方·····ひどいですわ!マリア!

 あ、マリア!胸を揉もうとするのは止めてください!

 マリアは指をワキワキさせながら、じりじりと私に寄ってくる。
 私は踵を返し、ダッシュでその場を逃げる。

 悲しいかな、運動音痴は私は数メートルでマリアに捕まり、おっぱいモミモミを授業の始まる鐘が鳴るまで続けられた。

 それを皮切りに、周りからの風当たりがきつくなったのだった。
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